研究課題/領域番号 |
20K05993
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
柏木 孝幸 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (40595203)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 炭水化物蓄積 / 倒伏抵抗性 / QTL集積 / イネ |
研究実績の概要 |
本年度の計画に基づき、BSUC11あるいはprl5を有する近似同質遺伝子系統(NIL-BSUC11、NIL-prl5)、及び両QTLの集積系統(2系統)の遺伝子型解析と表現型解析を行った。近似同質遺伝子系統ではドナー由来の染色体断片が1.5Mb以下のサイズであり、集積系統のF1で2つの領域においてヘテロであることを確認した。形態学的特性において、NIL-prl5の草丈はコシヒカリより有意に低くなっていたが、NIL-BSUC11及び集積系統では同等であり、また分げつ数は両系統ともコシヒカリと同等であることを確認した。prl5の特徴である葉身の老化の遅れについて、NIL-prl5及び集積系統はいずれも収穫期に高いSPAD値を示した。倒伏抵抗性の確認として下位部の押し倒し抵抗値を測定した結果、NIL-prl5は分げつあたりの押し倒し抵抗のみを1.3倍、集積系統は今回用いた2系統の中で1系統のみ有意に押し倒し抵抗を1.6~1.8倍高めていた。加えて、本研究室で以前の研究で同定した押し倒し抵抗に関与するQTL(PRL4)がprl5と同様に非構造性炭水化物を蓄積するQTLであることが確認されたので、このPRL4とBSUC11の集積系統を作出し、F1系統を用いて前述と同様の解析を行った。PRL4の近似同質遺伝子系統(NIL-PRL4)は約6.6Mbのドナー由来の染色体断片を有することを確認し、このNILは草丈、分げつ数、葉身の老化程度ともにコシヒカリと同等であった。PRL4とBSUC11の集積系統ではNIL-prl5より葉身の老化が早いことを確認し、押し倒し抵抗はNIL-prl5と同等であり、コシヒカリより1.5倍以上の向上を示した。これらの結果から、BSUC11とprl5を対象とした本研究にPRL4を加え、BSUC11との集積系統も対象とすることにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はBSUC11あるいはprl5を有する近似同質遺伝子系統及び両QTLの集積系統の遺伝子型解析と表現型解析を行った。その結果として、集積系統では両QTLの導入領域がヘテロとなっていることを確認し、倒伏抵抗性の向上とprl5が示す葉身老化の遅れも確認した。その他の形質として、生産性上重要な草丈と分げつ数ではコシヒカリと同等である事が確認された。さらに、prl5と同様に非構造性炭水化物の蓄積増加により下位部の支持力を高めるQTLであるPRL4を同定し、その近似同質遺伝子系統とBSUC11との集積系統からprl5と同等以上の倒伏抵抗性向上を確認した。この結果から、PRL4を本研究に追加して目的としている異なる炭水化物蓄積特性の両立性の検証に加えることにした。研究成果の公開として、これまでに得た成果の一部について学会発表を実施した。研究は当初の計画通り進んでおり、順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は集積系統のホモ個体をF2系統から選抜し、選抜された集積系統と近似同質遺伝子系統、加えて基準となるコシヒカリを水田圃場で育成し、出穂以降の稈内炭水化物蓄積特性を解析する。ホモ化した集積系統の選抜では、BSUC11、prl5あるいはPRL4を含む染色体断片がホモ化した個体をDNAマーカーにより選抜し、圃場試験用に必要な個体を確保する。集積系統の稈内炭水化物蓄積特性及び倒伏抵抗性の解析では、コシヒカリ、各QTLの近似同質遺伝子系統、選抜した集積系統を水田圃場で育成し、稈内炭水化物蓄積特性及び倒伏抵抗性を解析する。稈内炭水化物蓄積特性では上位部節間と基部節間を対象に構造性炭水化物と非構造性炭水化物を出穂から経時的に測定する。倒伏抵抗性では圃場条件下での倒伏程度、材料試験機による稈物理特性、押し倒し抵抗、稈形態を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス対応のためのPCR検査の増加により、年度内に納入が不可能な試薬・物品が含まれたため、次年度に繰越して購入することにした。
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