最終年度の2022年は過去2か年の成果を踏まえ、主に年次間変動の確認と研究結果の取りまとめを実施した。研究圃場はこれまでと同様の群馬県館林市内の現地2圃場とした。育苗は大学内の育苗施設で実施し、移植前約1週間前に現地へ搬送して馴化させた。 水稲育苗箱全量基肥 (以下、箱全量) を用いた高密度播種による苗の生育は育苗完了時の草丈や葉齢において箱全量を用いた慣行播種量の苗と遜色はなく、実用上問題はなかった。唯一問題があるとすれば、箱全量では肥料成分の早期溶出による地下部の生育抑制が認められ、苗マット強度の低下を挙げることができた。しかしながら、移植時に苗の取り扱いを丁寧に実施することで解決でき、現場では苗取り板を使用して移植機に苗を装着することから大きな問題にはならないと考えられる。 移植後の生育も既往の成果とほぼ同様の傾向を示し、6月以降の播種、移植でも高密度播種栽培は実用的に問題ないことが実証された。加えて箱全量との技術融合によっても収量・品質は慣行の標準播種量+育苗培土のみ、高密度播種+箱全量の両区との間に有意な差はなく、現地導入が可能な技術であることを実証できた。 3か年の結果を総合して考察すると、年次間の変動があるものの、収量は箱全量の対慣行施肥量に対しての減肥率を抑えた20%減肥が最も多収になる傾向であった。従来は品質面とコストまで勘案して40%減肥を推奨してきた。しかしながら、近年の温暖化傾向で40%減肥では肥料の溶出が早まった結果、近年はやや収量が低下傾向にあること、併せてコメ需給情勢の変化から供試品種の「あさひの夢」が食用から飼料用に用途がシフトしつつあることも考え合わせると、用途によっては20%減肥による栽培も選択肢の一つになりうると考えられる。
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