研究課題
作物の水ストレス耐性研究において、多くが対照区とコントラストなストレス区との比較によるもので、土壌中の水分は時間的にも空間的にも不均一であることを考慮した研究は少ない。本研究では、水ストレスとして不均一な水分条件にターゲットをあてて、そのような条件に対する作物の器官間および根系内の代謝物の変動と遺伝制御について明らかにることを目的とした。あわせて低コストでハイスループットなフェノタイピング手法の確立を試みた。まず、時間的水分不均一条件下のイネの生育と代謝変動との関係について評価した。材料には日本晴を用いた。人工気象機内にて、対照区(水ストレスなし)、乾燥ストレス区(ポリエチレングルコールPEG4000、8%)と水分変動区(乾燥ストレス区→対照区)を設け、人工気象機内にて水耕条件で栽培した。サンプリング時に植物体の写真を取得し、画像解析によって取得できる形質について検討した。その後、葉身、葉鞘、根 (親根と側根)に切り分け、凍結乾燥後に破砕したサンプルを抽出し、限外濾過処理を行って分析試料とした。キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、アミノ酸、有機酸、糖リン酸などのイオン性有機物と糖類を分析した。乾燥ストレス区では対照区と比較すると、糖代謝やリン酸に関わる物質群が減少した。一方で、乾燥ストレス解除72時間後には、対照区と同様の代謝反応に戻ることが明らかとなった。次に、空間的水分不均一条件として、イネ(日本晴)を上記のPEG有/無の寒天培地を用いて人工気象機内にて栽培した。定期的に一眼レフカメラで寒天培地の入っ た容器ごと写真を撮影し、地上部と根系の生育をモニタリングして、連続的なデータの取得を試みた。
3: やや遅れている
写真データを用いた画像解析によるフェノタイピング手法の確立を試みたが、根系形質の取得が予想以上に困難であった。とくに直径の小さい側根の反応を正確に捉えることができるような評価システムの構築が課題である。そのため、やや遅れていると判断した。
1. 時間的水分不均一条件下のイネの生育と代謝変動との関係について、側根の反応を正確に捉えることができるフェノタイピングシステムを検討する。またフェノタイピングデータと代謝物などの構成成分についてより詳細な分析を進める。2. 空間的水分不均一条件下のイネの生育と代謝変動との関係について、サンプリンングした分析試料を解析し、1の分析結果と照らし合わせる。さらに寒天培地中の根の漏出物の代謝プロファイリングも試みる。3. 1と2でフェノタイピングシステムが確立できたら、遺伝的に異なるイネ材料を対象として、不均一水分環境に対して高い耐性/感受性を示すイネを選抜する。4. 3で選抜したイネを用いて、不均一水分環境に特異的な形質と代謝物を同定し、関連する遺伝子の発現量を調べる。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Plant Root
巻: 15 ページ: 10-18
10.3117/plantroot.15.10
Breeding Science
巻: 71 ページ: 20-29
10.1270/jsbbs.20106
https://icrea.agr.nagoya-u.ac.jp/