研究課題/領域番号 |
20K05998
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
深山 浩 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (60373255)
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研究分担者 |
松村 浩由 立命館大学, 生命科学部, 教授 (30324809)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ルビスコ / 光合成 / X線結晶構造解析 / 遺伝子組換え / アミノ酸置換 / RbcS / C4植物 / 戻し交配 |
研究実績の概要 |
ソルガムRbcSを高発現しイネRbcSを欠損させたイネ系統(CSS系統)は非形質転換イネよりも高い光合成能力を示すにも関わらず,乾物生産能力が劣る.その原因は形質転換時に生じた体細胞変異であると考え,CSS系統について2回の戻し交配を行った.現在,戻し交配系統を自殖させて目的の系統を選抜中である. Rubisco含量の多いCSS系統を作出するために,ソルガムRbcS高発現イネの中でソルガムRbcSの発現が高い系統について,イネRbcSの欠損を導入中である. ソルガムRbcSのアミノ酸配列の102番目のロイシン(イネではイソロイシン)がRubisco触媒速度を高める効果があると考えられる.ソルガムRbcSの102番目をイソロイシン(SbRbcS-L102I),イネRbcSの102番目をロイシン(OsRbcS-I102L)に置換したRbcSを発現する形質転換イネを作出した.さらに,それら形質転換イネについてイネ野生型RbcS欠損を導入するために,CSS系統との交配を行い,後代から目的の系統を選抜中である. C4植物のネピアグラスは102番目がイソロイシンであるがRubiscoは高い触媒速度を示す.また,光合成器官で発現しないイネOsRbcS1もRubiscoを高活性型にする効果を持っている.イネOsRbcS1を高発現し他のRbcSをRNAi法でノックダウンした形質転換イネ(iKS系統)について,葉身よりRubiscoを精製し結晶化を行った.現在,X線結晶構造解析を進めている.ネピアグラスRbcS高発現イネについてはCSS系統と交配し,自殖させた個体から,ネピアグラスRbcSを発現し,イネRbcSを欠損した系統(CNS系統)を選抜した.しかしながら,CNS系統は生育不良であり,高CO2条件にしても生育は回復しないことがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,主に研究に必要となるイネ系統の作出を進めた.CSS戻し交配系統,SbRbcS-L102I系統,OsRbcS-I102L系統,CNS系統の作出については予定通りに進行している.計画当初は予定していなかったが,RbcSの102番目がイソロイシンであるのにRubiscoの触媒速度が高いトウモロコシRbcSについても高発現形質転換イネの作出に着手している.しかしながら,当初予定していたタカナリを背景としたCSS系統の作出は形質転換が困難であり,進行が遅れている. イネOsRbcS1とイネRbcLのハイブリッドRubiscoについては,予定通りに葉身より精製を行い,結晶化に成功している. 以上より,タカナリの形質転換に関しては遅れているが,おおむね予定通りに研究は進んでいると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
CSS戻し交配系統については,光合成速度,成長解析等の生理解析を進める予定である.しかし,得られているCSS戻し交配系統は全て,種子の稔実率が低い傾向が現時点で認められている.最近,シロイヌナズナにおいてもRbcSの構成を改変すると種子形成が異常となることが報告されている.種子の稔実率の低下がRbcSを改変したことによる効果であると判断できる場合は,非常に興味深い現象であり,そのメカニズムについて研究を進める必要があると考えている. SbRbcS-L102I系統,OsRbcS-I102L系統,CNS系統についてはRubiscoの酵素特性の解析を行う.CNS系統のRubiscoはイソロイシン型のネピアグラスRbcSとイネRbcSのハイブリットRubiscoであるが,このハイブリッドRubiscoが高活性型である場合には,102番目のアミノ酸以外のアミノ酸が触媒特性に作用していることとなる.SbRbcS-L102I系統,OsRbcS-I102L系統,CNS系統のRubiscoについても葉身からRubiscoを精製し,X線結晶構造解析を行う.ここで問題と考えていることが,CNS系統は生育不良であり,高CO2条件にしても生育が回復しないことである.X線結晶構造解析を行うには相当量の葉身が必要であるが,得られているCNS系統では困難である可能性がある.CNS系統の葉身が十分に得られない場合は,MS培地で従属栄養的に育成するなどの対策を考えている.また,別のアプローチとして同じイソロイシン型で高活性であるトウモロコシのRbcSの高発現に着手している.現在,形質転換当代を育成中であり,今年度,イネRbcSのノックアウトを進める予定にしている.
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