研究課題/領域番号 |
20K05999
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
辻 渉 鳥取大学, 農学部, 准教授 (60423258)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Stress memory / Drought hardening / Transgenerational memory / 乾燥ストレス / 食用作物 / 適正栽培技術 / ストレス耐性種子 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
植物が有するStress memoryを乾燥地での作物生産に応用することを目的に,Drought hardening(DH,育成中の幼苗にあらかじめ乾燥ストレスを与えることで定植後の耐乾性を強化する栽培手法)およびTransgenerational drought memory(TDM,親世代に乾燥ストレスを与えることで次世代の種子に耐乾性を付与する種子生産手法)の現象とその生理生態的応答について検証した. DHでは,移植栽培する作物の中から世界的に広く栽培されるイネとトマトを供試した.小型ポットで育成した幼苗に対して,乾燥ストレス強度およびストレス後の回復期間の有無を組み合わせた様々なDH処理を行った.定植後に強い乾燥ストレスを与えたところ,いずれの作物種でもDHによって対照区に比べて生存期間が長くなる効果が認められた.この効果は特にイネで顕著であり,最大の効果を示したのはストレス強度が最も高く,回復期間を設けないDH処理区であった.この効果は定植後の吸水速度を高く保つことに起因しており,これによって気孔コンダクタンスと葉面積を高く維持していた.しかしながら総根長は減少していたことから,DHによって吸水効率が高まったと考えられた. 一方TDMでは,乾燥地で多く栽培される自殖性のソルガムと他殖性のトウモロコシを供試した.ポット栽培した開花期以降の親個体に対して様々な強度の乾燥ストレスを与え,そこから採取した種子を育苗して再度乾燥ストレスを与えた.その結果,親世代でのストレスが強かった種子ほど千粒重が小さかったものの,そこから発生した子世代の苗,特に強・中ストレス区の苗は対照区よりもRGR(相対成長速度)が大きかった,すなわち食用作物で初めてTDMが実証された.このTDMは総根長の増加に伴って吸水能力が高まること,および水利用効率が向上することに起因することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の研究期間において,Drought hardening (DH)については草本性のイネとトマトを用いて研究を行った結果,木本性植物での既報と同様に,DH処理による耐乾性向上効果が認められた.やや挑戦的な課題であったが,初年度で作物でのDHの効果を現象として確認できたため,今後は計画通りDHの作用機構についてより詳細に調査する.また他の作物種でもDHの効果を検証する余裕が出来たため,計画以上に研究が進むことが期待される. 一方,Transgenerational drought memory(TDM)については,ソルガムは1年目で子世代の種子を得るともに,人工気象室を活用することでTDMの効果も検証することが出来た.トウモロコシについては,種子親の初期成育が不良であったため十分量の種子が得られなかったが,ソルガムと同様の現象が確認された.トウモロコシについては再現性を確認する必要があるが,TDMについてもおおむね順調に研究が進んでいると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
Drought hardening (DH)については,イネ・トマト以外のイネ科・ナス科作物での効果を明らかにするため,トウモロコシとトウガラシも加えて検証し,このDHが草本性作物で一般化できるかを明らかにする.1年目と同様に,光合成速度・気孔コンダクタンス・吸水速度等の生理的パラメータについて測定するとともに,LC/MS/MSを用いてDH処理によって特異的に生じるアミノ酸,糖,植物ホルモン等の有機酸を網羅的に解析する.さらに,RNA-seqによってDH処理で特異的に発現する遺伝子を網羅的に解析して,DHに関連する遺伝子を同定する. 一方Transgenerational drought memory(TDM)に関しては,ソルガムでは子世代の個体に乾燥ストレスを与えて孫世代を採種し,獲得した耐乾性が後代に遺伝するかについて検証する.トウモロコシについては,1年目とは異なる種子親・花粉親を供試することで,確実に成果が得られるよう工夫する.研究が順調に進んでいることから,計画段階では対象にしていなかったサツマイモなどの栄養繁殖性の作物についてもTDMが有効かを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において,本研究で不可欠な光合成測定装置のみを導入したが,残金が1万円以下であったので,次年度に繰り越して有効活用することが妥当と判断した. (使用計画) 繰り越した資金は令和3年度の物品費として計上し,消耗品等の購入に充てる予定である.
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