研究課題/領域番号 |
20K06003
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
飯嶋 盛雄 近畿大学, 農学部, 教授 (60252277)
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研究分担者 |
泉 泰弘 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (90305558)
牛尾 昭浩 兵庫県立農林水産技術総合センター, 農業技術センター, 主席研究員 (60463353)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 根粒着生制御 / 接触混植 / 亀裂施肥 / 亀裂処理 / 黒ダイズ / イネ / 湿害緩和 / 水田転換畑 |
研究実績の概要 |
本研究では、申請代表らがこれまでに公表した「萌芽的な技術提案」である、「根粒着生制御」と「接触混植」の複合が、ダイズの湿害ストレス緩和に有効であるかどうかを明らかにすることを目的とする。前年度までの研究進展により、奈良県、滋賀県、兵庫県の近畿地区3県にまたがるフィ-ルド試験を実施し、イネとダイズの接触混植と亀裂処理という萌芽的な栽培技術の融合を目指した基礎研究を展開し、研究目的を達成する。まず、奈良県では近畿大学に隣接する農家圃場と、近畿大学実験圃場内の小型のコンクリ-ト制実験圃場において、接触混植試験を実施した。農家圃場では、イネが先行するリレ-播種によってイネ/ダイズの接触混植試験を実施した。現場での作業体系を考えると接触混植苗をセルトレイで栽培する手法は社会実装には程遠いため、接触混植の直播技術としての成立を目指す。小型の実験圃場では、競合と補完関係を検討するため、イネとダイズの栽培距離を数段階替えて実験を実施した。滋賀県立大学においては、7アール規模の実験水田で前年度と同様な接触混植―亀裂処理実験を実施した。亀裂処理は別研究で開発した亀裂処理機を使用して実施した。亀裂処理の実施後に、長期間の干ばつ被害が発生し易いため、転換畑に備えられた灌漑水を用いてフラッシュ灌漑を実施した。兵庫県立農林水産技術総合センターでは、黒ダイズの丹波黒を供試して亀裂処理試験を実施した。黒ダイズにおける生育初期の土壌湛水ストレス耐性は不明であるため、本年度は初めてのフィールド試験となった。これまでの成果をまとめた学会発表を行うとともに投稿した原著論文が採択されオンライン公表された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近畿大学で実施した、農家圃場試験では、初めてイネとダイズのリレ-播種による接触混植の直播を実施した。無灌漑で天水に任せた実験設計であったが、イネとダイズの両種とも成熟期を迎えることが可能であることが明らかになった。小型の実験圃場では、強い土壌湛水ストレス条件では、接触混植が最も高い補完関係を示すことを明らかにした。いっぽう、土壌湛水ストレスが弱い条件では、イネとダイズを一か所に移植した場合のほうが、接触混植苗を移植した場合よりも補完関係が強いことが明らかになった。湿害緩和という補完関係よりも根が絡み合うことによる養水分をめぐる競合関係のほうが大きくなると推測できる。滋賀県立大学で実施した接触混植―亀裂処理実験では、フラッシュ灌漑により、陸稲の収穫期まで栽培が可能となるとともに、亀裂処理効果が対照条件でも1.3倍の収量増という高収量を導いた。新型の亀裂処理機を用いたことにより、根の切断効果の高さと通気性の改善効果が著しくなったこと、さらにフラッシュ灌漑が迅速な新根発生に寄与したと考察できる。兵庫県立農林水産技術総合センターで実施した黒ダイズの亀裂処理試験では、湛水期間を当初予定の7日間とした結果、著しい立ち枯れが発生した。黒ダイズでは、土壌湛水ストレス処理後の立ち枯れ拡大が、白ダイズと比べ大きいのかもしれない。砂質土壌では亀裂処理効果は強亀裂処理と弱亀裂処理の両者とも対照区、土壌湛水処理区ともに認められた。立ち枯れ発生により、試験区間のバラツキが大きくなったため統計処理上の有意性は認められなかった。しかし、今後の社会実装の可能性がありうることが判明した。いっぽう粘質土壌では亀裂処理効果は認められなかった。粘質土での通気性改善効果が根の切断に伴う一時的な生育抑制を上回らなかったと考察できる。以上の結果から、概ね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
近畿大学で実施した農家圃場試験は前年度に引き続きリレ-播種による直播体系への移行試験を実施する。今年度はフラッシュ灌漑の可能性を追求する。農家圃場は水田転換畑であるため灌漑は可能である。そこで、他の試験などとの整合性を考慮して実施できるように検討する。同じく小型実験水田については前年度までで一定の成果を得たため、今年度は実施しない。成果を取りまとめ統計処理による有意性の有無などから原著論文化が可能かどうかを精査する。滋賀県立大学では前年度に引き続き同一のフィールド試験を繰り返し、原著論文化を目指す。昨年度と同様な成果が得られれば、論文化が期待できる。兵庫県立農林水産技術総合センターでも引き続き前年度と同じ設計で丹波黒ダイズを用いた亀裂処理実験を実施する。前年度の結果から判断して生育初期の土壌湛水ストレス期間を短縮することによって苗の立ち枯れを抑制する。本年は最終年度に当たるため、奈良県、滋賀県、兵庫県の3県にまたがる別々の視点のフィールド試験成果から、根粒着生制御と接触混植の複合効果を総合的に評価し、今後の研究展開を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度には、COVID-19感染拡大とその減少が周期的に起こったため、予期せぬ時期の、学生や教職員の入構制限が各試験地で生じた。したがって、一部試験で購入予定であった物品の購入を次年度以降に回すこととしたため、次年度使用額が生じた。繰り越された予算については有効に活用し、奈良県、滋賀県、兵庫県の3県で実施するフィールド試験運営に必要な研究用品類を購入していく予定である。現状では滋賀県立大学においてコメの食味検定を実施することなどが議論されている。なお、作物の播種時期である5月中には予算執行計画を微調整することが例年必要となる。さらに、2022年度は、本研究の最終年度でもあるため、実験を進める過程で、新たに必要となる研究用品や旅費、謝金等についても柔軟に対応できるような予算執行を行っていく予定である。
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