本研究は、イネの籾の内部に子実が存在する稔実籾と、高温等の影響により受精に失敗した結果として籾の内部に子実が存在しない不稔籾を、静電分別により簡便かつ非侵襲的に判別する方法を確立することで、温暖化により発生の増大が懸念される高温不稔の発生実態の把握と、それに起因する減収を回避するための対策技術の開発を加速しようとするものである。 稔・不稔の判別には従来、籾を一粒一粒指で押さえた際の触感により子実の有無を判定する方法や、薬液による子実の染色および籾殻部分の脱色を行ったのちライトテーブル等を用いて籾に可視光を透過させて子実の有無を判定する方法が用いられているが、圧迫による構造の破壊や薬液による変性といった不可逆的な変化が籾に生じうる侵襲的な方法である上、多大な労力を要するという問題がある。 当年度は、前年度までに構築した暫定的なプロトコルの検証と改良に取り組んだ。すなわち、不稔籾と稔実籾が混在している籾サンプルを対象として、高電圧帯電装置により帯電させた樹脂板を作用させることにより、稔実籾に対して相対的に軽量な不稔籾を静電吸着させて分別するプロトコルを確立した。ただし、当該プロトコルを用いて不稔判定を行った場合に、一部の稔実籾を誤って不稔籾と判定することがある。結果として、透視により判定した不稔率の真値に対してやや過大に見積もる可能性があり、その傾向は不稔率が低いほど顕著となる点には注意を要する。また、高湿度条件では帯電を維持することが困難となるため、当該プロトコルは相対湿度を低く調節した環境で適用する必要がある。このような制約はあるものの、当該プロトコルは不稔を乾式で簡易かつ迅速に判定する一助となると期待される。
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