果実はヒトの健康に寄与する様々な有用機能性成分の重要な供給源となっている.植物器官の中でも果実は多様性に富んだ複雑な構造を有しており,多くの有用成分の蓄積量は構成組織の種類や発達ステージによって異なる.しかし,果実において各組織固有の遺伝子発現を制御する機構の全容は明らかとなっていない.本研究では,果実における組織構造発達や有用物質蓄積性を制御する技術の開発につながる知見を得るため,発達中のトマト果実をモデルとしたクロマチン構造の組織間比較を行い,組織依存的な転写調節領域の網羅的同定を試みる. 本年度は,前年度に得た組織別トランスクリプトームデータを用いた共発現解析を行い,組織依存的な発現遺伝子群を同定した.その結果,胚珠におけるDNA脱メチル化,胎座組織におけるテルペノイド代謝,果実中心組織におけるデンプン合成,果皮におけるペクチン代謝などに関する遺伝子群の共発現が明らかとなった.さらに,未受粉の胚珠で特異的な高発現を示すエチレン生合成遺伝子に着目し,ゲノム編集による欠損変異を導入して機能解析を行った.その結果,同遺伝子が未受粉な子房におけるエチレン生成および着果抑制に関与することを示唆する結果を得た. また,前年度のATAC-Seq解析の結果をうけ,抽出核の健全性をより高めるための核抽出手法の再検討を行った.しかし,目標としてレベルの品質を上回る核を果実組織から安定的に得るプロトコルの確立までには至らなかった.
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