研究課題/領域番号 |
20K06012
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大川 克哉 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 講師 (00312934)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パッションフルーツ / 養液栽培 / 光合成 / 葉果比 / 花蕾発育 / 乾物重 / 全炭素含量 |
研究実績の概要 |
新梢生育中における花蕾の発育不良の要因,特に着果との関連性を明らかにすることを試みた.開花した花にすべて受粉する着果区と開花した花をすべて除去する無着果区を設けたところ,着果区では結果枝の着果節位以降の節で着果しない柱頭直立花の発生や花蕾発育が停止し,黄変落下したのに対し,無着果区では,ほぼすべての節で花蕾は正常に発育し開花に至った.これらのことから着果の有無が着果節位より先端部の花蕾の発育に強く影響することが明らかとなった.また,これらの樹の新梢を下位節と上位節にわけ,それぞれの茎,葉および果実(花蕾,花)の乾物重および含有全炭素,全窒素および無機成分を調査したところ,茎,葉および果実の乾物重および全炭素含量の合計は,結果枝下位節では着果区で高く,結果枝上位節では無着果区で高い傾向にあった.また,結果枝下位節では,乾物重,全炭素,全窒素およびカリウムの占める割合は果実で高かった.さらに,受粉20日後までの果実の乾物重および無機成分含量を調査したところ,受粉20日後にかけて乾物重および窒素およびカリウム含量は急増した.これらのことから,パッションフルーツにおいて果実は光合成産物および無機成分の極めて強いシンクであり,結果枝下位節に果実が多く着生すると,結果枝上位節での花蕾発育に使われる光合成産物や無機成分が不足し,異常花の発生や花蕾発育の停止を誘導するものと考えられた.また,結果枝全体の乾物重および全炭素含量は着果区で高かったことから,着果の有無が葉の光合成速度にも強く影響するものと考えられた. 養液栽培したパッションフルーツの適正葉果比を明らかするために1樹当たりの着果数を1とし,葉果比を5,7,9および11としたところ,果実肥大および乾物重から適正葉果比は7から9であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の実験では,パッションフルーツの花蕾の発育について,着果,光合成産物および無機成分の分配の観点から,その停止の要因について明らかにすることができた.これまでパッションフルーツの花蕾発育停止の要因は気温の観点からしか,考察されてきていなかったが,今回の実験ではそれとは異なる要因を明らかにできたことは当初の目的を達成できたものと思われる.次に2020年度のもう一つの課題はパッションフルーツの適正葉果比を明らかにすることであるが,7~9枚とある程度絞り込め,概ね当初の目的は達成されたと思われるが,さらに絞り込んでいくことが必要である.
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今後の研究の推進方策 |
2020年の結果から適正葉果比は7~9であったことから,2021年度では結果枝において7あるいは9節間隔で着果させ,花蕾発育,果実品質,果実収量,各器官における乾物重および無機成分,ならびに培養液中無機成分吸収量に及ぼす影響を調査し,養液栽培したパッションフルーツにおける適切な着果方法を明らかにする.これらの結果をもとに2022年度には,より長期間結果枝を伸長させた場合の伸長特性,果実特性および果実収量を明らかにし,果実の周年生産および高収量生産が可能かどうか検討する.一方,結果枝を長期間伸長させる場合,夏期の高温期には培養液および培地の温度が上昇し,結果枝の伸長や花芽分化に悪影響を及ぼす可能性が考えられる.そこで,2021年には苗の定植時期を変えたいくつかの作型を行い,結果枝の伸長や果実品質特性に及ぼす影響を明らかにするとともに,培養液や培地の温度を低くする処理を行い,その効果を検証する. 次に高炭酸ガス環境下でのパッションフルーツ樹の光合成反応と果実生産性について,2021年度には,まず閉鎖型苗生産装置内での育苗中の炭酸ガス濃度の違いが苗質と定植後の果実生産性に及ぼす影響を調査し,高炭酸ガス環境に対するパッションフルーツの反応性を明らかにする.さらに,光合成速度の低下しやすい冬季の作型において,定植後の高炭酸ガス環境が葉の光合成特性,光合成産物の分配と転流,果実品質および果実収量に及ぼす影響を明らかにする.これらの結果をもとに,2022年度の実験ではさらに着果数を増加させて(葉果比を低くして)栽培を行い,これらの樹の生育,葉色,花蕾発育,果実の結実と品質,果実収量,果実収穫期間の違いを比較する.さらに,培養液吸収量および培養液中無機成分吸収量の季節的変化を調査する.これらのことを行い,高炭酸ガス環境下での光合成特性を明らかにし,高品質・多収生産が可能かどうか検討する.
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