研究課題/領域番号 |
20K06015
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本橋 令子 静岡大学, 農学部, 教授 (90332296)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 光合成 / 日変動 / 遺伝子破壊株 |
研究実績の概要 |
栽培環境によって、作物は大きく品質や収量に影響を受ける。植物から検出される遅延発光は分のオーダーで起こる比較的微弱な蛍光であり、葉緑体の光化学系の反応中心で光エネルギーにより電荷分離反応が起こった後に、分離したエネルギーの高い電荷(光化学系の酸化側に生じた正電荷と還元側に生じた負電荷)が再結合することでクロロフィルP680が再励起状態になり、それが基底状態に落ちる際に放出される蛍光である。研究代表者はすでにシロイヌナズナの葉緑体タンパク質遺伝子破壊株から野生型と異なる遅延発光減衰波形を示す変異株を多数単離した。また、遅延発光により評価できるストレス要因を把握し、ストレス評価方法も確立し、1日を通して変動する光や温度が与える光合成への影響を遅延発光減衰波形によって観察した。本研究計画では、シロイヌナズナの葉緑体タンパク質遺伝子のタグラインから遅延発光を観察して、光や温度の日変動応答に関与する遺伝子を探索し、環境の日変動応答メカニズムを解明する。また、環境の日変動応答メカニズムの解明により、植物の生産性向上を試みる。 葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株を照度日変動と温度日変動の条件で、遅延発光の異常のスクリーニングを行った。 温度日変動条件は、1/2MS培地で22℃、照度10000 lx、 明期16時間/暗期 8時間の日長周期の条件で、10日間栽培後に、○1高温変動条件:照度10000 lx、明期 22℃ 4時間・28℃ 8時間・22℃ 4時間/暗期 16℃ 8時間、○2低温変動条件:照度10000 lx、明期 16℃ 4時間・22℃ 8時間・ 16℃ 4時間 /暗期 8℃ 8時間に移し、毎日、明期の22℃条件下の一定時間(明期の真ん中)に、BIOPHOTON ASSAY SYSTEM PMX6100(浜松ホトニクス社製)を用いて遅延発光を測定する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナの葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株300株を高温日変動条件と低温日変動条件で栽培し、遅延発光異常をスクリーニングした結果、どうちらの条件でも単離された遅延蛍光減衰曲線異常変異体は同じ変異株であった。そこで、葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株を約700株について、高温変動条件(照度10000 lx、明期 22℃ 4時間・28℃ 8時間・22℃ 4時間/暗期 16℃ 8時間)でのみスクリーニングを行った。全ての実験は、3個体ずつ、3回測定し、再現性を確認した。その結果、20株が高温日変動条件で遅延蛍光の減衰曲線が野生型と明らかに異なった。また、20株の半数が、通常栽培条件(1/2MS培地で22℃、照度10000 lx、 明期16時間/暗期 8時間の日長周期)で、以前すでに野生型と異なる遅延発光減衰波形を示した遺伝子破壊株であり、再現よく遺伝子破壊株の遅延発光異常を検出していることがわかった。多くはサイクリック電子伝達(NDH依存経路)の構成因子(NADH dehydrogenase-like complex) やNDHを構成するタンパク質RNAの編集やフェレドキシン(Fd)の遺伝子破壊株であった。この結果は、変動環境が与える光合成能力の抑制について研究された東京大学の矢守先生の結果で、NDH依存経路が弱光環境下での電子伝達反応に重要である結果と類似する。最終的に新規に高温日変動条件で、野生型と異なる遅延発光減衰波形を示した10株の変異体を単離することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、単離した高温日変動条件の変異体の原因遺伝子の解明と他の光合成パラメーターの解析を行う。また、各原因遺伝子の機能解析は、遺伝子発現レベルの組織特異性および光応答性、温度応答性の解析、プロモーター領域のシス配列解析を行う。さらに、下記の照度日変動条件で葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株の遅延発光減衰波形を調べ、変異体を単離する。まず、葉緑体タンパク質の遺伝子破壊株を1/2MS培地で22℃、照度10000 lx、 明期16時間/暗期 8時間の日長周期の条件で、10日間栽培後に、○1強光変動条件:22℃で、明期 照度10000 lx 4時間・照度22000 lx 8時間・照度10000 lx 4時間/暗期 8時間) または、○2弱光変動条件:22℃で、明期 照度 5500 lx 4時間・照度16000 lx 8時間・照度5500 lx 4時間/暗期 8時間) に移し、毎日、22℃条件下の明期開始8時間後に、BIOPHOTON ASSAY SYSTEM PMX6100(浜松ホトニクス社製)を用いて遅延発光を測定する。
|