前年度までに231種類のUGT候補遺伝子を特定し、その一部が香気配糖体の合成に関与することを推定していた。令和5年度には、さらに精密化したドラフトゲノムデータから新たに17種の候補遺伝子を同定し、これらの機能解析を実施した。具体的には、大腸菌を宿主とするバイオコンバージョンアッセイ系を利用し、ゲラニオールやリナロール、ネロールなどの非環式モノテルペンアルコールの配糖化を触媒するUGTが11種に限定されることを明らかにした。興味深いことに、本酵素群は環状式モノテルペンアルコールに対して糖転移活性を発揮しないことが明らかとなった。また、これらのうち8種にはシグナル配列の存在が推定され、葉緑体における香気配糖体合成の担い手である可能性が示唆された。 さらにメバロン酸経路や非メバロン酸経路、テルペノイド合成経路に関わる遺伝子群の推定を行い、登熟下の果実における香気配糖体の合成効率の変化を総合的に考察した。そしてRNA-seqデータから、上述の8種のUGTよりもむしろ、モノテルペノイド合成遺伝子群の発現変動が登熟中期以降に見られる香気配糖体の貯蔵停滞に強く影響していることが示唆された。 このほかマンゴーよりクローニングした類縁糖転移酵素のX線結晶構造解析を達成し、そのユニークな構造-機能相関を報告した。 期間全体の成果を総合し、アーウィン種マンゴーの果実に含まれる香気配糖体は主にモノテルペンアルコールに由来すること、その貯蔵過程に8種の専門的なUGTが関与することが裏付けられた。また、香気配糖体の貯蔵効率は登熟に連動することが明らかとなり、その基盤にモノテルペノイド合成遺伝子群の発現特性が密接に関連していることが示唆された。
|