研究課題/領域番号 |
20K06025
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
黒瀬 義孝 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 西日本農業研究センター, チーム長 (80355651)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 模擬植物(根) / テンシオメーター / 土壌のマトリックポテンシャル / 乾燥ストレス |
研究実績の概要 |
荒木田土を詰めたポットに長さ50cm、100cm、200cmの模擬植物(根)を設置し、真空計の値を読み取った。なお、真空計の位置はポーラスカップから50cmの位置とした。土壌のマトリックポテンシャルが-50kPa(pF2.7)までは塩ビ管の長さは測定値に影響を及ぼさなかった。-50kPaよりも土壌が乾燥すると、長い模擬植物(根)ほど土壌のマトリックポテンシャルの変化に追随できなかった。土壌のマトリックポテンシャルが-50kPaまではポーラスカップから水がほとんど滲出することなく、土壌のマトリックポテンシャルと塩ビ管内の負圧は平衡に達する。一方、-50kPaよりも乾いた土壌水分領域では、ポーラスカップから水が滲出しつつ平衡に達するため、塩ビ管内の容積が大きいほど負圧の変化が鈍くなった。なお、-50kPaよりも土壌が乾燥する領域では、滲出水量で土壌のマトリックポテンシャルを評価するため、模擬植物(根)で測定した負圧の変化が土壌のマトリックポテンシャルに追随できない点は問題とならない。 カンキツ園地で土壌のマトリックポテンシャルと模擬植物(根)内の負圧および滲出水量との関係を調査した。土壌のマトリックポテンシャルはテンシオメータおよび水ポテンシャルセンサー(TEROS21)で測定した。その結果、土壌のマトリックポテンシャルが-50kPaまでは、模擬植物(根)で測定した負圧はテンシオメータとほぼ同じ値を示した。-50kPaよりも土壌が乾燥する領域では、模擬植物(根)からの滲出水量と土壌のマトリックポテンシャルとの間に直接関係が得られた。以上より、土壌が湿った領域(圃場用水量付近)から乾いた領域(pF4付近)まで、模擬植物(根)内の負圧および滲出水量から土壌のマトリックポテンシャルを測定できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の申請書では、次の項目を明らかにするとしている。①ポーラスカップの周囲に充填する透水性資材の材質と充填範囲、②模擬植物(根)で測定した負圧の補正方法、③模擬植物(根)による土壌のマトリックポテンシャルの測定、④模擬植物(根)による植物の乾燥ストレスの測定である。このうち、①と②に関しては令和2年度で明らかにした。③に関しては令和3年度に、模擬植物(根)により土壌のマトリックポテンシャルが測定できる可能性を示した。一方、④の植物の乾燥ストレスの測定に関しては、新型コロナの感染拡大に伴い、令和3年度も農家園地で葉内最大水ポテンシャル(乾燥ストレス)の測定はできなかった。そこで、所内に2つの試験区を設け、梅雨明け前からマルチシートを広げて土壌を乾燥させ、試験を行った。しかし、カンキツに乾燥ストレスがかかることは無く、葉内最大水ポテンシャルと模擬植物(根)の指示値との関係は明らかにできなかった。カンキツに乾燥ストレスがかからなかった原因は、カンキツの根群がマルチシートの外にまで伸びていたためと考えられる。 日射が模擬植物(根)に当たると、真空計の値にノイズのような変動が観測された。特に、土壌が湿っている領域でノイズのような変動が顕著に表れた。この原因は、模擬植物(根)の塩ビ管が日射により膨張や収縮することにより、塩ビ管内の負圧が変動するためと考えられた。この対策として、塩ビ管を日除けで覆うことにより軽減できることを示した。 以上のように、模擬植物(根)による植物の乾燥ストレスの測定以外の研究は順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題でまだ達成できていない項目は、植物が受けている乾燥ストレスを模擬植物(根)の指示値により評価する点である。次年度はこの項目を重点的に試験する。すなわち、これまで新型コロナの感染拡大に伴って実施できなかった農家園地での葉内最大水ポテンシャル(乾燥ストレス)の測定を行う。また、所内試験では、令和3年度とは異なる圃場のカンキツを追加して試験を行うとともに、乾燥ストレスがかからなかった試験区ではカンキツの根切りを行い、乾燥ストレスがかかる条件を作って試験を行う。 令和3年度に模擬植物(根)で土壌のマトリックポテンシャルを測定する手法を特許出願するために、知財担当者と特許出願の可能性を検討した。その結果、特許4840803(発明者:黒瀬)が模擬植物(根)の知財を網羅しており、特許出願は行わないことになった。知財化を考えて成果の公表を控えていたが、次年度は学会発表等により模擬植物(根)の成果を積極的に公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
植物が受けている乾燥ストレス(葉内最大水ポテンシャル)の測定は日の出前に行う必要があり、農家園地で測定するには、宿泊を伴う出張が必要である。しかし、新型コロナの感染拡大により、宿泊を伴う出張ができなかった。このため、旅費に残額が生じた。残額は翌年度に繰り越し、農家園地にて葉内最大水ポテンシャルを測定するための旅費として支出する。
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