研究課題/領域番号 |
20K06029
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
小森 貞男 岩手大学, 農学部, 教授 (00333758)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | リンゴ / 培養技術 / 倍加半数体 / 珠心細胞 / 不定胚 / 成長点 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
リンゴのゲノム編集実用化のための培養技術の確立のために四つの実験を行い、下記の成果を得た。 ①DH個体の葯培養による胚様体の形成:DH品種‘95P6’はリンゴの他の品種と比較して葯培養による胚様体形成率および植物体再生率が高く、実験材料として好適であった。さらに、別のDH系統であるSD8に‘95P6’の花粉を授粉してF1種子の作出に成功した。実用性を考慮した場合、F1種子を用いてゲノム編集のモデル実験を行うことが有効と推察された。 ②珠心細胞由来の胚様体の作出:‘ふじ’、‘王林’、‘千秋’の開花後30日と40日の種子に由来する珠心細胞から不定胚の形成に成功した。 ③成長点に由来するカルスからの多数のシュート形成:継代で維持している‘ふじ’の茎頂を切り出し、カルス誘導、シュート誘導実験を行った。実験の結果、シュート増殖培地で暗黒処理を行いCaboni et al.(2000)のカルス誘導培地でカルスを増殖後、Saito・Suzuki(1999) のシュート誘導培地でシュートを形成させる手順が最適と判明した。しかし、カルスからのシュートマス状態での再分化は依然として困難であり、また、成長点の調整の手間およびRNP導入効率を考慮した場合、葉切片からのシュートマスの形態で再分化系を用いることがより実用的と考えられた。 ④ゲノム編集個体のキメラ解除過程の体系化:CRISPR/Cas9にPDS遺伝子配列を組み込んだベクターをAgrobacterium法でリンゴ品種‘Greensleeves’に導入し、形質転換体およびゲノム編集個体を作出した。白化したゲノム編集シュートは形質転換後5ヶ月目に出現した。これらの情報をもとに、さらに実験を重ねて、抗生物質等の選抜マーカーを用いない場合のゲノム編集シュートの効率的な作出体系を構築する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リンゴ品種の遺伝子組成を変えずに目的遺伝子のみの改変を行うゲノム編集の実用化を目指して、一過的な遺伝子発現によるゲノム編集を可能にする種々の培養技術の開発を試みた。また、効率的にゲノム変種個体を獲得する手順を確立する目的で、ゲノム編集個体のキメラ解除過程の体系化に関する実験も行った。 ①DH個体の葯培養による胚様体の形成:花粉稔性を有するDH品種‘95P6’の花蕾を採取し葯培養を行った。‘95P6’はリンゴの他の品種と比較して葯培養による胚様体形成率および植物体再生率が高く、実験材料として好適であることが判明した。また、別のDH系統であるSD8に‘95P6’の花粉を授粉してF1実生の作出に成功した。 ②珠心細胞由来の胚様体の作出:‘ふじ’、‘王林’、‘千秋’の開花後30日と40日の種子から珠心細胞を取り出し珠心培養を行った。‘王林’と‘ふじ’は開花後40日、‘千秋’は開花後30日の不定胚形成率が高く、培地組成はオーキシン無添加、TDZ 0.05~1.0 mg/Lが好適であった。 ③成長点に由来するカルスからの多数のシュート形成:継代で維持している‘ふじ’の0.5mm以下の茎頂を切り出し、カルス誘導、シュート誘導実験を行った。シュート増殖培地で暗黒処理を行いCaboni et al.(2000)のカルス誘導培地でカルスを増殖後、Saito・Suzuki(1999) のシュート誘導培地でシュートを形成させる手順が最適と判明した。 ④ゲノム編集個体のキメラ解除過程の体系化:CRISPR/Cas9にPDS遺伝子配列を組み込んだベクターをAgrobacterium法を用いてリンゴ品種‘Greensleeves’に導入し、形質転換体およびゲノム編集個体を作出した。白化したゲノム編集シュートは形質転換後5ヶ月目に出現したが、ゲノム編集は形質転換シュート形成時に既に生じていた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、リンゴ品種の遺伝子組成を変えずに目的遺伝子のみの改変を行うゲノム編集の実用化のために種々の培養技術を開発し、最終的にゲノム編集個体の獲得方法の体系化を実現することである。この目標を達成するために今後は以下の実験が必要と考えられた。また、実験①、②、③で作出する実験系をパーティクルボンバードメントによるRNP導入に使用するためには、①では、休眠打破後の種子のステージの把握、②では、不定胚への導入方法の条件設定、③では、RNP導入に最適な葉切片のステージの把握が必要である。 ①DH個体の葯培養による胚様体の形成では、樹勢が弱く開花までの年限が長い‘95P6’に代わり、DHである‘95P6’とSD8のF1種子を用いてゲノム編集実験を行うことがより実用的と考える。 ②珠心細胞由来の胚様体の作出に関しては、主力品種で種子親と同じ遺伝子組成の不定胚形成に成功したが、珠心細胞由来のカルスから安定的に不定胚を作出する技術を開発する必要がある。 ③成長点に由来するカルスからの多数のシュート形成では、‘ふじ’、‘王林’の成長点由来カルスから高頻度でシュート再生が可能になったが、パーティクルボンバードメントによるRNP導入のために必要なシューマス化は依然として困難である。さらに成長点の調整の手間およびRNP導入効率を考慮した場合、葉切片からのシュートマスの形態で再分化系を用いることがより実用的と考えられた。 ④ゲノム編集個体のキメラ解除過程の体系化においては、ゲノム編集が未だ起きていない形質転換シュートの葉切片を用いてシュート再分化を誘導した結果、高効率でゲノム編集シュートが得られることが確認できた。また、白化したゲノム編集シュートの出現状況から、ゲノム編集が誘導されやすい時期と効率的なゲノム編集個体の獲得方法を体系化する必要があり、この体系化は実現可能と推察された。
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