研究課題/領域番号 |
20K06032
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
鈴木 俊二 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60372728)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブドウ / 花数 / 果粒数 / トレハロース / サイトカイニンオキシダーゼ |
研究実績の概要 |
ブドウ1房当たりの花数(果粒数)は収量決定要素のひとつであり、品種間の特徴でもあるが、その決定メカニズムは未だ明らかでない。ピノ・ノアールのような多粒の醸造用ブドウを日本で育てた場合、梅雨時の水分過多による果粒肥大から密着果房となり、裂果が生じる。しかし、取引単価が安い醸造用ブドウでは多くの労働力が必要な摘粒作業は現実的でなく、これら品種を我が国で栽培し、高品質な果実を得ることは極めて難しい。本研究課題は「トレハロースホスファターゼが制御するトレハロース代謝系がブドウの1房当たりの花数を決定する」という全く新しい概念をもとに、科学的根拠を担保した革新的な果粒数制御技術を開発することに新規性を有する。結果として、これまで我が国では栽培が困難であった密着果房醸造用品種の栽培拡大および果実品質の向上並びに日本ワインの品質向上に本研究課題は貢献する。 先行研究において、萌芽前の芽へのトレハロース処理が醸造用ブドウの1房当たりの果粒数を減少させることを見出した。この分子機構として、トレハロースホスファターゼが生成するトレハロースがサイトカイニンオキシダーゼ(花芽分化を促進する植物ホルモン「サイトカイニン」の分解酵素)を誘導することで花芽数(果粒数)が減少されると推定した。「トレハロースを用いた果粒数制御技術の開発」に向け、果粒数の制御に関わる分子メカニズムの決定と併せ、令和2年度は実圃場においてトレハロース処理が醸造用ブドウの1房当たりの果粒数を減少させることを再現し、他の果実品質への影響も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験圃場として、ワイン科学研究センター前庭圃場で栽培されるピノ・ノワールを供試した。令和2年4月8日、HPLC用シリンジニードルを用いて10%トレハロースを萌芽直前の芽に処理した(250 μL/芽)。対照区として、水処理区(トレハロース処理区と同様にシリンジニードルにて萌芽目の芽に水を処理した)および無処理区を用意した。令和2年4月16日、若齢花序の展開後に手動式噴霧器を用いてトレハロースの追加散布を1度行なった(1 mL/花序)。収穫期となる令和2年8月7日、房を回収し、形態的データ(房長、房重、果粒重、果粒数、小果梗数)および果実品質データ(果汁糖度、果汁酸度、果皮アントシアニン含有量)を常法により測定した。 上記圃場試験において、①無処理区および水処理区と比較し、トレハロース処理は房重、房長を減少した、②トレハロース処理により房当たりの果粒数(=花数)が減少した、③トレハロース処理は果粒重および小果梗数に影響を及ぼさなかった、および ④トレハロース処理による果汁糖度、酸度および果皮アントシアニン含有量の変化は認められなかった。 これらの結果は2019年に実施した圃場散布試験の結果を再現するものであったことから、トレハロース処理は果実品質に影響を及ぼさずに房当たりの花数を減らすことが可能であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
果粒数制御技術の開発に向け、実用化時の作業性を考慮し、萌芽直前の芽へのトレハロースのインジェクション処理に加え、トレハロース溶液のスプレー散布処理も並行して実施する。散布時期は萌芽直後の新芽とし、1%、10%および30%トレハロース溶液を散布する(250 μL/芽)。若齢花序が展開後に追加散布(250 μL/花序)を数回行う。 果粒数制御の分子メカニズムの解明として、サイトカイニンオキシダーゼを高発現するシロイヌナズナおよびブドウを作出し、サイトカイニンオキシダーゼの高発現により花数(果粒数)が減少することを実証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により旅費を使用することができず、その未消費分の一部として残額が残った形である。次年度は物品費(消耗品費)として流用する予定である。
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