ブドウ1房当たりの花数(果粒数)は収量決定要素のひとつであり、品種間の特徴でもあるが、その決定メカニズムは明らかでない。マイクロシリンジニードルを用いてピノ・ノワールの新芽が萌芽する直前に10%トレハロース水溶液を新芽当たり250 μL内部にインジェクションした結果、1房当たりの果粒数は対照区(水処理)、無処理区と比較して、1年目の圃場試験で50%、2年目の圃場試験で60%減少した。一方、トレハロースの1房当たりの果粒数減少効果はマイクロシリンジニードルを使用し新芽へトレハロースをインジェクション処理した場合のみ認められ、スプレー散布による新芽へのトレハロース処理では効果が認められなかった。以上の結果から、1房当たりの果粒数を減少させるためには萌芽直前の新芽の内部に存在する花序の成長点あるいは小果梗および花の分裂組織にトレハロースを確実に処理することが重要であると考えられた。 トレハロースによる1房当たりの果粒数減少の分子メカニズムとして、トレハロースがサイトカイニンオキシダーゼを誘導することで花芽数が減少されると仮説を立てた。醸造用ブドウのサイトカイニンオキシダーゼ・ファミリーのうちVvCKX5遺伝子発現量が1房当たりの果粒数と負の相関を持つことを見出した。ブドウ培養細胞およびブドウ若齢花序へのトレハロース処理によりVvCKX5遺伝子発現量が増加した。本研究期間において、VvCKX5遺伝子高発現シロイヌナズナ3系統を作出した。これらの成長を目視で観察したところ、いずれも野生型と比較して成長が遅れた。特に、野生型と比較してVvCKX5遺伝子高発現体は花の数が40-60%減少した。以上の結果から、醸造用ブドウにおいてVvCKX5遺伝子は花数を負に制御する遺伝子のひとつとして機能し、トレハロースはVvCKX5遺伝子の発現を誘導するスティミュラントとして機能することが推察された。
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