研究課題/領域番号 |
20K06036
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
安田 喜一 東海大学, 農学部, 講師 (00780610)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブドウ / 半数体 / 葯培養 / SSRマーカー / 倍数性解析 / 巨峰 / シャインマスカット |
研究実績の概要 |
我が国のブドウの大粒系品種の育成は高次倍数性に依存しており、二倍体であってもヘテロ性が高いという特徴をもつことから、戦略的な育種が難しい。本研究では、我が国でさらなる革新的なブドウ品種を開発するために、産業的にも波及効果の大きい優良品種である‘巨峰’と‘シャインマスカット’を供試材料として実験Ⅰ:小粒種子の胚培養からの選抜、実験Ⅱ:葯培養、実験Ⅲ:軟X線照射花粉を用いた偽受精胚珠培養、を用いて、それぞれ二ゲノム性半数体と半数体の作出を試みる。 令和2年度に、植物組織培養を用いた半数体作出法に必要不可欠な遺伝解析のためのDNAマーカーの選定を試みた。その結果、Plant Genome Data Base japanで既に構築・公開されたものから、‘巨峰’と‘シャインマスカット’を含む近縁な品種間において複数の多型が存在するVCr3aとVChr13aを選定することができた(安田ら,2021)。 令和3年度は、主に葯培養による半数体作出を試みた。‘巨峰’と‘シャインマスカット’の効率的な葯培養法確立のため、NN培地に植物ホルモンと3種のポリアミンを添加した15区を設けた試験を実施した。両品種ともに多くのカルスを作出し、オーキシンの種類は2,4-DよりNAA、ポリアミンの種類はスペルミンで高いカルス形成率を示すことを明らかにした。作出したカルスのフローサイトメトリー(FCM)を試みたが、一般的な手法で明瞭なピークを得られなかったため、令和2年度選定のSSRマーカーを用いた倍数性解析を検討し、手法を確立した(安田ら,2021)。本手法により‘巨峰’カルス77系統と‘シャインマスカット’カルス3系統の倍数性解析を実施し、二倍性半数体の可能性を示唆する1系統を見出せたが、生存能が四倍体カルスより比較的低く、枯死した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、実験Ⅰ:小粒種子の胚培養からの選抜、実験Ⅱ:葯培養、実験Ⅲ:軟X線照射花粉を用いた偽受精胚珠培養をそれぞれ令和2年、3年および4年度に実施し、令和3年と4年度に随時倍数性や遺伝的な解析を実施する計画である。また、葯培養と偽受精胚珠培養については、培養条件の設定や軟X線照射花粉の事前実験などを初年度から実施する予定であった。一方、令和2年度初頭より世界的なCOVID-19の感染拡大により、研究室や圃場などへの立ち入り制限や遠隔業務への対応のため、交配等のフィールド実験と植物組織培養を伴う事前実験がまったく実施できなかった。そのため、そのような環境下でも実施可能である遺伝解析のためのSSRマーカーの選定について、令和3年度より実施する計画を前倒しし、令和2年度に一定の成果を得ることができた。 令和3年度もCOVID-19の感染拡大による制限下ではあったが、実験Ⅰと実験Ⅱを実施できた。実験Ⅰでは、採種時の種子休眠が深く、小粒種子を含むすべての種子で発芽が認められなかった。一方、実験Ⅱでは、‘巨峰’と‘シャインマスカット’の効果的な葯培養条件を試験範囲内で明らかにするとともに、FCMが困難なブドウカルスに対してDNAマーカーを用いた倍数性解析手法を見出すことができた。また、令和4年度実施予定である実験Ⅲについて、偽受精胚珠培養に必要な不活化花粉作成のために、軟X線照射装置の条件設定と予備的な試験を実施した。さらに、遺伝解析に必要である高性能なDNAマーカー構築のために、MinIONを用いたナノポアシークエンスを試みたが、一定の成果を得るためには今後も追加的な試験が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の感染拡大が著しい5月が、本研究の最重要期であるブドウの開花期であり、その影響が懸念されるが、臨機応変に実験内容を改変したいと考えている。令和3年度に実施した試験において、効率的な葯培養によるカルス作出および令和2年度の成果を活かしたカルスの倍数性解析手法を確立できた。 今後は、多くの検討事項が残される小粒種子からの選抜より葯培養と偽受精胚珠培養に重点を置いて研究を遂行する。令和4年度は、引き続き葯培養によるカルス系統の作出を試みるとともに、令和3年度実施の花粉への軟X照射の結果に基づいて、偽受精胚珠培養を実施し、半数体の作出を目指す。また、DNAシークエンシング技術を駆使し、遺伝解析のための高性能なDNAマーカーの構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大環境下において、一部に実験計画遂行の優先順位に変更が生じたことと学会が遠隔開催となったことにより、次年度使用が発生した。同等の目的で令和4年度に使用予定である。
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