研究実績の概要 |
我が国の大粒系ブドウ品種育成は高次倍数性に依存し、二倍体でもヘテロ性が高く、戦略的な育種が難しい。本研究は、さらなる革新的なブドウ品種を開発するため、産業的な波及効果の高い‘巨峰’と‘シャインマスカット’を供試し、実験Ⅰ:小粒種子の胚培養からの選抜(濃硫酸処理の強制休眠打破を検討したが、非効率であり試験を中断)、実験Ⅱ:葯培養、実験Ⅲ:軟X線照射花粉を用いた偽受精胚珠培養により、二ゲノム性半数体と半数体の作出を試みた。 1年目は植物組織培養を介した半数体作出に必要不可欠な遺伝解析に用いるDNAマーカーの選定を試みた。その結果、Plant Genome Data Base japanで既に構築・公開されたものから、‘巨峰’と‘シャインマスカット’を含む近縁な品種間において複数のヘテロ性の高い多型をもつVCr3aとVChr13aを選定することができた。 2年目は‘巨峰’と‘シャインマスカット’のNN基本培地上で葯培養を行い、両品種で多くのカルスを作出し、オーキシンは2,4-DよりNAA、ポリアミンはスペルミンで高いカルス形成率を示した。カルスのフローサイトメトリーでは一般の手法でピークが得られず、前述のSSRマーカーを用いた倍数性解析法を確立した。本手法により‘巨峰’カルスから二倍性半数体の可能性を示唆する1個体を見出せたが、脆弱な成長により枯死した。 3年目は軟X線を照射した‘巨峰’と‘シャインマスカット’の花粉を用いて偽受精胚珠培養を行った。両品種とも0と500Gy照射より1,000と1,500Gy照射で顕著な花粉稔性の低下が観察された。一方、交配で得られた果実の種子形成に一定の差はなく、胚珠から植物体再生には至らなかった。併せて、MinIONを用いたナノポアシークエンスとRNAseqによりDNAマーカー開発のための生データを獲得でき、今後解析を進める予定である。
|