研究課題/領域番号 |
20K06038
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
米森 敬三 龍谷大学, 農学部, 教授 (10111949)
|
研究分担者 |
西山 総一郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (50827566)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | タンニン細胞 / 果樹 / カキ / 渋味 |
研究実績の概要 |
カキ果実の渋味成分は、カテキンやエピカテキンなどのフラバン-3-オールのポリマー(重合体)である縮合型タンニンであり、果肉柔細胞の異形細胞であるタンニン細胞の液胞中にのみに多量に蓄積され、その蓄積過程の差異によって、完全甘ガキの品種群と完全甘ガキ以外の品種群(完全渋ガキ、不完全甘ガキ、不完全渋ガキ)が生じる。本年度は、まず、このタンニン細胞がどのような過程で果実柔細胞中に分化していくのかという点を調査するため、完全甘ガキである‘富有’の開花期に子房を採取し、子房内でのタンニン細胞を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。また、同時期の‘富有’の新梢および葉柄でのタンニン細胞の分布状況を樹脂包埋後、切片を作製して調査した。さらに、‘富有’の葉柄から誘導したカルスを用い、カルス中のタンニン細胞の分布と縮合型タンニンの構成成分についても予備的に調査した。その結果、開花期のTEM観察では、タンニン物質が細胞間隙に蓄積していること、タンニンが蓄積される細胞内にはタンニン物質を含んだ小胞が存在していること、またゴルジ体様の器官から小胞が生成されていることを観察したが、この時期ではすでにタンニン細胞の分化が完了しており、その分化過程を明確にすることは出来なかった。また、新梢や葉柄ではタンニン細胞が維管束に沿って分布していることが観察でき、タンニン物質の維管束を介した移動の可能性も考えられた。さらに、葉柄由来のカルスにもタンニン細胞が分化していることが示され、蓄積するタンニン物質は果実中に蓄積するタンニンよりも低分子の縮合型タンニンであることが示唆された。これらの結果から、タンニン細胞分化過程を調査する上で、開花前の蕾段階での子房試料のTEM観察の必要性とともに、TEM観察用の超薄切片作製が容易であると考えられるカルス細胞を用いたモデル実験系構築の有益性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の進捗状況が遅れている最大の理由は、本年度の新型コロナウイルスの感染拡大である。このことによって、4月初旬に緊急事態宣言が発出され、5月中下旬の解除まで、通常の活動が大きく制約された。本研究課題の目的であるカキ果実でのタンニン細胞の分化過程の調査では、この緊急事態宣言発出中の期間が重要な試料採取時期であり、その試料採取に大きな支障が生じたことによりその後の実験を計画通りに進めることが出来なかった。さらに、この緊急事態宣言解除後も新型コロナウイルス感染拡大抑制のための社会活動のさまざまな制限が要請されると同時に、年明けには第2回目となる緊急事態宣言が発出されるに至った。このため、かろうじて採取した試料の調整や観察・解析のための研究活動も大きく制約され、このことが本研究課題の進捗が遅れた最大の要因となった。これに加え、子房内のタンニン細胞が固定により凝固し、子房組織の硬度が均一でなくなるため、TEM観察のための超薄切片作製が非常に困難であった事も進捗状況の遅れの一因となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の結果から、子房内でのタンニン細胞の分化過程を調査するためには開花期での試料採取では時期が遅いことが分かったため、開花前の蕾の段階での子房を採取し、この試料を用いたTEM観察を実施する。このことにより、タンニン細胞分化前の子房内柔細胞中の細胞内小器官の差異を詳細に観察することで、タンニン細胞に分化する細胞とそうでない細胞を識別することが可能かどうかを調査することとする。さらに、本年度のカルスを樹脂包埋して光学顕微鏡で観察した結果から、タンニン細胞の分化過程の解析にカルス細胞を用いたTEM観察が有効である可能性が明らかとなったので、カキの葉柄由来カルスを用いたタンニン細胞分化過程解析のためのモデル実験系の構築を模索する。また、カルス中のタンニン細胞に蓄積されるタンニン物質は、果実中で蓄積されるタンニン物質よりも低分子である可能性が示唆されたため、カルスを用いたタンニン構成成分の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を実施することで、カキ果実のタンニン物質の骨格を構成すると考えられるフラバン-3-オールの特定を目指す。一方、果実発育に伴うタンニン細胞へのタンニン蓄積機構の解明を目的として、果実肥大期のタンニン細胞のTEM観察を試みるとともに、固定しない新鮮果肉切片を作製後、蛍光色素での染色によるタンニン細胞の特性を調査することも試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、本年度はコロナ禍のため、大学への入構が制限されるなどの要因が発生し、計画していたカキ幼果のサンプリングやその後の切片作製・観察・解析などすべての実験計画の遅延あるいは断念のため、十分な実験を実施することが出来ず、当初計画していた実験の一部を実施するに留まった。このため、当初予定していた物品費、旅費、人件費・謝金などの経費を計画通り使用することが出来ず、次年度へこれらの経費を繰り越す結果となった。今後、これらの経費に令和3年度に配分される予定の経費を加え、当初の実験計画を修正し、研究目的に沿って改めて本研究課題の実験を実施することで、配分される経費を適切に使用していく予定である。ただ、今後もコロナ禍が続くことが予想されるので、コロナ禍の状況を確認しながら、新たな実験計画とそのための経費使用計画を柔軟に変更して対処していくこととしたいと考えている。
|