モモは、果皮や花弁などのさまざまな組織に天然赤色色素アントシアニンを蓄積するが、その品種間差の生じる遺伝的要因について解析した。モモの中には、アントシアニンを合成できず、果皮や花弁などが赤くならないアントシアニン欠損モモが存在する。このようなモモを17種類集め、その原因となる遺伝子変異を調べたところ、全部で4種類存在することが分かった。いずれも、細胞内で合成されたアントシアンを液胞に輸送する働きをもつと考えられるGST遺伝子のヌル突然変異であった。モモのアントシアニン欠損はGSTが活性を失うことにより引き起こされることが明らかとなった一方、すべての変異がGSTに集中したことは、アントシアニンと合成経路がほぼ重なるカテキン、エピカテキンなどのポリフェノール類がモモの生育に重要な役割をもつことを示唆すると考えられる。 モモの中には、多くの細胞でアントシアニンを合成できないものの、一部の細胞ではアントシアニンを合成でき、いわゆる絞り咲きあるいは源平咲きという花弁をつける品種がある。この形質の原因について調べたところ、すでに見つけたアントシアニン欠損を引き起こすGST遺伝子のトランスポゾン挿入変異が白色細胞に存在し、赤くなる細胞ではトランスポゾンが失われた正常型GST遺伝子が検出できることから、GST遺伝子に挿入されたトランスポゾンの離脱によって一部の細胞でGSTの機能が回復し、アントシアニンを合成できるようになることが、絞り咲き形質の原因であることが明らかとなった。
|