研究課題/領域番号 |
20K06046
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中島 雅己 茨城大学, 農学部, 教授 (70301075)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 拮抗細菌 / 土壌病害 / 緑肥作物 / Bacillus属細菌 |
研究実績の概要 |
本研究は緑肥を利用した旧来の生物的防除技術と緑肥に定着能を有する拮抗細菌を組み合わせることで、利用する生産者も取り組みやすく、効果的でかつ広大な農地でも使用可能な防除技術の開発に取り組むものである。本研究では、緑肥作物として一般に利用されるソルガムを使用し、トマトとその土壌病害をモデルとして防除系を確立することを目的とする。ソルガムに定着能を有する拮抗細菌の分離を以下の方法によって行った。微生物相が多様であると考えられる有機栽培圃場の土壌5種、有機栽培に利用されている14種のコンポスト、雑木林の土壌5種を採取し、それらの土壌で短稈型ソルガムを栽培した。ソルガム種子は次亜塩素酸ナトリウムを用いて表面殺菌後、6×6×5 ㎝のサイズのセルトレイに充填した各種土壌に播種し、人工気象器内で25℃、明期16時間、暗期8時間の条件下で栽培した。栽培2週間後にソルガムの根を水道水で洗浄し、70%エタノールおよび次亜塩素酸ナトリウムで表面殺菌した後、根を摩砕して10倍量の滅菌水を加え、細菌懸濁液とした。これらをトマト青枯病菌含有PPGA平板培地に塗抹し、28℃で24時間培養することで青枯病菌の生育を抑制して阻止円を形成する拮抗細菌の分離を行った。その結果、2種の有機栽培圃場の土壌、2種のコンポスト、5種の雑木林の土壌でそれぞれ培したソルガム根から計11株の拮抗細菌が分離された。これらについてグラム染色を行ったところ、9菌種がグラム陽性桿菌、2菌株がグラム陰性桿菌であった。グラム陽性細菌について同定を行ったところ、3菌株がBacillus megaterium、1菌株がB. amyloliquefaciens、5菌株がB. cereusに分類されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では病原菌に対して抗菌活性を持ち、緑肥作物に定着能を有する根圏細菌を利用することで、緑肥作物の栽培と同時に土壌病害防除を可能にする防除技術の開発を目指した。 各種の土壌を用いて栽培したソルガム根からトマト青枯病菌に対して生育抑制効果を示すBacillus属細菌が分離された。それらを同定したところ、5株がB. cereusであることが示された。Rostand et al.(2019)はジャガイモの根圏から青枯病菌に抗菌活性を示すB. cereusを分離している。B. cereusは土壌中など自然界に多く分布していることが知られており、バイオコントロールエージェントとしての可能性を示す報告もある。3株はB. megateriumと同定された。Munjal et. (2016)はコショウの根から、青枯病菌を含む複数の植物病原菌に抗菌活性を示すB. megateriumを分離している。1株はバイオコントロールエージェントとして多くの報告があるB. amyloliquefaciensと同定された。我々はこれまでに、マッシュルームコンポストから分離されたB. amyloliquefaciensがトマト青枯病菌を含む数種の土壌病原菌に拮抗活性を示し、本菌をコンポストに添加して施用することでトマト青枯病を抑制することを明らかにしている。以上のことから、ソルガム根から分離した3種のBacillus属菌はバイオコントロールエージェントとなる可能性があり、当初の計画通りにおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ソルガムにおける拮抗細菌の定着性評価は次の方法で行う。滅菌土壌にソルガム種子を播種し、1週間後の植物体根圏に抗拮抗細菌の懸濁液を処理する。その2週間後にソルガムの根を採取し、拮抗細菌の定着性を評価する。定着能が明らかとなった拮抗細菌については、さらに、ソルガムの栽培期間となる2ヶ月間に渡って根における定着性および増殖率を調査する。次に、ソルガムを鋤き込んだ土壌中における拮抗細菌の増殖を評価する。接種2ヵ月後に拮抗細菌の定着および増殖が確認されたソルガムを採取し、地上部および地下部を細断して滅菌土壌に埋設混和する。ソルガムの腐熟期間である1ヵ月の後に埋設土壌を採取し、土壌中における拮抗細菌の増殖を調査する。さらに、ポット試験による病原菌生育抑制効果と病害抑制効果の検証を行う。滅菌培養土にトマト青枯病菌および萎凋病菌を接種して汚染土を調整する。これに拮抗細菌の増殖が確認されたソルガムを細断して埋設混和し、1ヵ月後まで経時的に汚染土における各病原菌の菌密度の推移を各調査する。汚染土で病原菌の生育抑制効果が確認された土壌にトマト苗を移植し、4週間後までの発病抑制効果を調査する。さらに、その抑制効果の要因としてトマト植物における拮抗細菌による抵抗性誘導が関与するか否かについても調査する。この調査はリアルタイムPCRの系を用いてトマトPR遺伝子の発現解析により行う。抵抗性誘導が関与することが明らかになった場合、拮抗細菌のトマト植物根圏および根内における定着性についても調査を行う。拮抗細菌を根圏に定着させたソルガムの青枯病菌汚染圃場における発病抑制効果の検証については、本学近隣の農家から青枯病菌汚染圃場の一部を借用して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた学会参加を取りやめたため、旅費として計上していた金額が使用できなかったため、残額が生じてしまった。次年度の旅費として使用する計画である。
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