研究課題/領域番号 |
20K06046
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
中島 雅己 茨城大学, 農学部, 教授 (70301075)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 拮抗細菌 / 土壌病害 / 緑肥作物 / ソルガム / Bacillus属細菌 |
研究実績の概要 |
本研究は緑肥を利用した旧来の生物的防除技術と緑肥に定着能を有する拮抗細菌を組み合わせることで、利用する生産者も取り組みやすく、効果的でかつ広大な農地でも使用可能な防除技術の開発に取り組むものである。本研究では、緑肥作物として一般に利用されるソルガムを使用し、トマトとその土壌病害をモデルとして防除系を確立することを目的としている。前年度までに有機栽培圃場の土壌、コンポストおよび雑木林の土壌で栽培したソルガム根からトマト青枯病菌に抗菌活性を示すのBacillus megateriumの3菌株、B. amyloliquefaciensの1菌株、B. cereusの5菌株が分離された。今年度は更に大学キャンパス内10箇所, 近隣の森林公園内10箇所, 有機栽培圃場5箇所の計25箇所から土壌を採取し、前年度と同様にソルガム根に定着能を有する拮抗細菌の分離を行った。その結果、6菌株のB. amyloliquefaciensおよび1菌株のBacillus megateriumが得られた。次に、ソルガムにおける拮抗細菌の定着性評価を次の方法で行った。滅菌土壌にソルガム種子を播種し、1週間後の植物体根圏に抗拮抗細菌の懸濁液を滴下接種した。その2週間後にソルガムの根を採取して表面殺菌した後に滅菌水中で摩砕して得られた細菌懸濁液をTSA平板培地に塗抹し、ソルガム根における各菌株の菌密度を計測した。その結果、拮抗細菌のソルガム根への定着能は確認されたが、それらの菌密度は供試した植物体によって異なる結果となった。そこで、拮抗細菌の接種時期を播種1週間後から播種時に変更して同様の試験を行った。その結果、全ての拮抗細菌で比較的安定してソルガム根に定着することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では病原菌に対して抗菌活性を持ち、緑肥作物に定着能を有する根圏細菌を利用することで、緑肥作物の栽培と同時に土壌病害防除を可能にする防除技術の開発を目指している。今年度は前年度の分離菌株に加えて更に多くの種類の拮抗細菌を得るために25か所から採取した土壌を用いてソルガム根に定着能を有する拮抗細菌の分離を行った。その結果、バイオコントロールエージェントとして多くの報告があるB. amyloliquefaciensの6菌株および1菌株のBacillus megateriumが分離された。得られたBacillus属細菌16菌株についてソルガム根における定着性評価を行った。その結果、Bacillus属細菌のソルガム根における定着はソルガムへの接種時期によって異なり、細菌懸濁液を播種1週間後の根圏に接種するより播種時に種子の周囲に接種する方がより安定に感染・定着することが示された。当初の計画では、高い定着能が明らかとなった拮抗細菌についてソルガムの栽培期間となる2ヶ月間に渡って根における増殖率を調査するとともにソルガムを鋤き込んだ土壌中における拮抗細菌の増殖と発病抑制効果の検証を行う予定であった。しかしながら、拮抗細菌のソルガム根における定着性試験に時間を要したために計画を遂行できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
ソルガム根における拮抗細菌の定着性および増殖率を緑肥としての栽培期間となる2ヶ月間に渡って調査する。次に、拮抗細菌の定着および増殖が確認されたソルガムを採取し、地上部および地下部を細断後に滅菌土壌に埋設混和することでソルガムの腐熟期間での土壌中における拮抗細菌の増殖を調査する。さらに、ポット試験による病原菌生育抑制効果と病害抑制効果の検証を行う。すなわち、滅菌培養土にトマト青枯病菌を接種して汚染土を調整し、これに拮抗細菌の増殖が確認されたソルガムを細断して埋設混和し、1ヵ月後まで経時的に汚染土における青枯病菌の菌密度の推移を調査する。汚染土で病原菌の生育抑制効果が確認された土壌にトマト苗を移植し、4週間後までの発病抑制効果を調査する。さらに、その抑制効果の要因としてトマト植物における拮抗細菌による抵抗性誘導が関与するか否かについても調査する。この調査はリアルタイムPCRの系を用いてトマトPR遺伝子の発現解析により行う。抵抗性誘導が関与することが明らかになった場合、拮抗細菌のトマト植物根圏および根内における定着性についても調査を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に予定していた学会参加を取りやめることで旅費として計上していた金額が使用できなかったため、残額が生じてしまった。次年度の旅費として使用する計画である。
|