研究課題
ウイルスに寄生して増殖する付随性の因子は“サテライト”と呼ばれ,ある種のサテライトはウイルスの感染症状が激化させ,また別のサテライトは病徴を軽減させるが,その分子機構の多くは不明である。レンゲ萎縮ウイルス(MDV) はナノウイルス科に属するDNAウイルスで,植物師部細胞内で増殖し,アブラムシによって永続的に伝搬される。MDVのゲノムは,サイズ約1,000 塩基で配列の異なる8 種の環状1本鎖DNAから成る分節ゲノムで,各DNA 上には単一の翻訳読み枠の他,ステムループ配列が一か所存在し,ここにある共通配列を起点としてローリング・サークル型のDNA 複製を行う。さらに,MDV ゲノムに付随して複製する,α-サテライトDNA がこれまでに4種同定されている。α-サテライトは自身のDNA 複製に関与するタンパク質をコードしており,MDV 感染細胞中で自律的に複製する能力を持ち,粒子形成とアブラムシ伝搬過程をMDV に依存するユニークなサテライトDNA である。これまでの調査で,自然感染したMDV の大半は,8 種のゲノムDNA に加えて2-4 種類のα-サテライトを含んでおり,サテライトを全く含まないウイルスはわずか(5%未満)であることが分かっている。一方類似の配列を持つα-サテライトDNAは他のナノウイルス種においても同定されているが,それらの病理学的意義すなわちウイルス複製に及ぼす影響は現在まで不明である。本研究は,ユニークは環状一本鎖DNAゲノムを持つ植物ウイルスとこれに付随する計4種のサテライトDNAを用いて,①.ウイルス転写・複製と病原性に及ぼす影響,② 改変導入したアルファサテライトによる遺伝子発現および遺伝子抑制ベクター化の可能性,③α-サテライトの同種・異種ウイルス間の水平伝搬,の3項目について試験を行う。
2: おおむね順調に進展している
初年度の令和2年度は以下の3項目について調査を行った。①. α-サテライトがウイルスに及ぼす影響の病理学的解析については,クローン化したDNA人工感染試験についてはまだ十分な感染率が達成されておらず,DNA濃度定量や病徴比較に至っていないが, GFP導入Nicotiana benthamiana 16c系統に対してTRVベクターを用いてCaMV 35Sプロモーター配列を発現導入することにより元々16c植物に導入されていた35S領域にメチル化とGFP転写抑制を誘導する試験は順調に進行しており16c系統に転写サイレンシングを導入し3世代にわたって自殖・選抜を行い16c-TGS系統を育成した。② α-サテライトDNAへの改変導入とベクター化については,上記①で作成した2量体DNAの複製系が完成していないため, 単独および2)ウイルス共存感染系における遺伝子発現抑制能を評価するに至っていない。③α-サテライトの水平伝搬の検証試験では,ナノウイルス科バブウイルス属のバナナバンチートップウイルス(BBTV)沖縄分離雄株を入手し,日本産BBTVの全ゲノム配列を初め解析し,新規アルファサテライトを同定した。
①の人工感染系については,諸条件の詳細な検討により感染率の向上を図るとともに,自然状態でアルファサテライトを含まないウイルス株の探索も行う。②の人工感染系については,自然界で同定された異種アルファサテライト間の組み換え体DNAの複製機構を調査項目に加え,異種アルファサテライト間のトランス複製系の構築と転写抑制能の調査を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Journal of General Virologvy
巻: 1.2(3) ページ: 1-2
10.1099/jgv.0.001544