研究課題/領域番号 |
20K06050
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
三浦 健 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60219582)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 昆虫病原糸状菌 / 化学農薬 / 生物間相互作用 / IPM |
研究実績の概要 |
本研究では、総合的病害虫管理(あるいは総合的病害虫管理(IPM))を構成する要素としても重要であって生物農薬としてもその利用が世界的に増加しつつある、昆虫に病気を引き起こし死に至らしめるカビの仲間・昆虫病原糸状菌に着目し、今後問題となってくるであろう、糸状菌製剤に対する害虫種の抵抗性発達の管理における有用な情報となる、ホスト昆虫の糸状菌感染に対する抵抗性遺伝子のリスト、ならびに糸状菌の持つ重要な病原性遺伝子のリスト、それぞれの同定と、両者の遺伝子間の対応を明らかにすることを課題の中心に据え、さらには新しい視点も加えての研究を進めているとことである。 用いているホスト昆虫種と糸状菌種はそれぞれ、貯穀害虫・衛生害虫であり、かつゲノム情報がが明らかなモデル昆虫でもある・コクヌストモドキ(Tribolium castaneum、Tc)と、糸状菌製剤の才良云うとして商業的にも重要なつの糸状菌種・Beauveria bassiana(Bb)とMetarhizium anisopliae(Ma)である。 昨年来のコロナ禍の影響もあて、年度の前半から中半は研究のスローダウンを余儀なくされる局面も発生したが、後半には糸状菌に感染させたホスト個体を用いた次世代シーケンシング(NGS)によるトランスクリプトーム(個体で発現しているmRNAの総体)の経時的取得と解析を開始し、その有効性を問題点を抽出するとともに、これは当初の予定にはなかったが、IPMの実施時の殺虫剤抵抗性管理においてたいへん重要な施用の組み合わせとなり得る、生物農薬(本研究では病原糸状菌)と化学合成農薬の併用処理時の相乗効果の確認とその分子メカニズムの解析の研究についても開始をした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度後半は多くの研究を行ったが、主として以下の研究についての進捗について紹介する。 1.In-host-RNA干渉技術について この技術は、ホスト昆虫に感染した状態での糸状菌側の特定の遺伝子の発現を、その遺伝子配列に相同な配列を持つ2本鎖RNAを試験管内で合成して昆虫体内に注入することにより抑え、当該の糸状菌遺伝子の機能について解析する、研究代表者が確立しつつある研究手法である。 今回は、benzoquinone oxide reductaseというキノン類に由来する酸化ストレスに糸状菌の細胞が対抗するためのBbのもつ還元酵素の遺伝子等をその対象としたところ、これまでホスト体内でのステージでは特に機能しないと思われていた一部の遺伝子ついては、その遺伝子のホスト体内での新たな機能を示唆する結果を得るとともに、それらのin-host-RNA干渉による発現抑制が、次世代の菌にも引き継がれることを確認した。
2.感染時のホストと糸状菌遺伝子の発現変動の一括取得 NGSを利用して糸状菌感染後120時間目までのホストと病原体両者のmRNAの発現変動を追った。用いた条件では、まずホストの遺伝子発現については感染初期から後期まで一貫して1反応当たり200万程度の有効なリードが得られた。一方、糸状菌側の遺伝子については、感染初期から中期までは、糸状菌の細胞数が多くなっていないためにリード数が少なく、定性的な解析はともかく、発現変動の統計的な解析が難しいという問題点が明らかになった。 3.「概要」の末尾で述べたように、糸状菌製剤と併用するネオニコチノイド系の化学合成殺虫剤処理時の両者の相乗効果について確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、NGSを用いたホスト・病原体両者のトランスクリプトーム解析については、先述のように、ホストのトランスクリプトーむ取得については、感染後のいかなる時期でも安定した結果が得られたが、糸状菌由来のmRNAについては感染後の早い時期ではその量が良い結果を得るには十分でないという問題点が今回明らかとなった。 従って、ホスト昆虫側から見た感染の進行に伴う現象の解析については当初計画のまま実施が可能であるが、一方の糸状菌側から見た感染の進行については、ひとまず感染中期から後期の現象、例えばホスト体腔でのカビ毒分泌やホストのクチクラの逆貫通などに着目して解析を進める。 同時に感染初期でも効率的に糸状菌遺伝子の発現を捉えることができる方法論の構築、例えばホスト昆虫のクチクラ性上皮上で起こる現象を捉える場合ならば、労力は掛かるが糸状菌の発芽・侵入時の昆虫のクチクラを解剖により集め、それを材料にしてNGSを実施するなど、を進める予定である。また、in-host RNA干渉法の更なる洗練化も実施する。 最後に、殺虫剤抵抗性管理を睨んだIPMにおいて重要かつ有効な方策である糸状菌製剤と化学殺虫剤との併用時における現象の遷移を正確に記述するため、この系についてもNGSを用いたホスト・病原体両者のトランスクリプトームの取得、ならびに両者の遺伝子ノックダウンとそれに伴う両者の表現型の比較を、併用する化学殺虫剤の種類の文脈を含めた上で、進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
先述したように、コロナ禍の影響を受け、年度前半は院生(社会人を含む)の登校自粛などもあって、当初購入を予定した設備備品の購入やシーケンス外注の回数を控えたこと、また旅費を消化しなかったことがあり、本年度の使用額が大幅に抑えられる結果となった。 幸い、この状況下でも結果的には研究の進捗は概ね順調であったので、発生した次年度使用額は設備備品の購入やシーケンス外注費用に有効に活用し、研究を加速していく所存である。
|