本研究では、総合的病害虫管理(IPM)の要素としても注目される昆虫病原糸状菌とモデルコウチュウをホストとした実験感染系を用い、糸状菌製剤に対する害虫種の抵抗性発達管理に有用な情報となる、ホスト昆虫側の抵抗性遺伝子と糸状菌側の病原性遺伝子の対応を明らかにすることを中心に据え、さらには新しい視点も加えての研究を進め、研究期間内以下の知見を得た。用いたホスト昆虫種はコクヌストモドキ、糸状菌種はとBeauveria bassiana(Bb)とMetarhizium anisopliaeである。 1.ホスト昆虫内で、感染糸状菌のRNA干渉を行う技術を開発し、benzoquinone oxidereductaseという酸化ストレスに抵抗するBbの遺伝子などをその実施対象とし、ホスト体内で被ったRNA干渉の効果が次世代の菌に引き継がれることを、発現レベルと表現型の両者により確認した。 2.感染時のホストと糸状菌遺伝子の発現変動の一括取得を次世代シーケンシング技術により試みた。その結果、糸状菌側の遺伝子について感染中期までは、糸状菌の細胞数が少なく発現変動の解析が難しいが、感染後期では両者の遺伝子発現変動が明確に得られ、この手法は感染後期のイベントの解析に適していることがわかった。 3.IPMにおいて糸状菌製剤と併用する化学合成殺虫剤としてネオニコチノイド系化合物を用い、被検昆虫の殺虫に関しての両剤の協奏効果を実験的に確認し、その分子的背景についての知見を得た。 4.ホスト昆虫側の遺伝子として、成虫特異的に発現する3種のクチクラタンパク質遺伝子に着目し、これらの遺伝子が上皮レベルでの糸状菌感染防御に機能することを明らかにした。また、ホスト昆虫の複数の遺伝子について、微生物感染時のシグナル伝達に関与することを示した。
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