研究課題/領域番号 |
20K06052
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
池田 健一 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (40437504)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | いもち病菌 / 細胞周期 / 病原性 |
研究実績の概要 |
これまでの成果より、いもち病菌胞子懸濁液を接種した環境条件の違いにより細胞分裂の制御が大きく異なることが明らかとされた。この環境条件の違いに着目して、市販のカバーガラスを用いて付着器形成評価を進めたところ、製造ロットにより付着器形成率が変動することが明らかとなった。そこで、安定して付着器を形成する条件を検討するために、基板修飾技術を用いてガラス表面に様々な特性を付与して、付着器形成の頻度を評価した。 その結果、これまで疎水性表面において付着器が形成されるとされてきたが、十分に洗浄処理した親水性表面においては、付着器が形成され、化学的修飾により親水性を付与した表面においては、付着器形成が阻害された。一方、化学的修飾により疎水性を付与した表面においては、根において感染する際に形成されることで知られる菌足様の構造を有する新たな発芽様式が観察された。この結果は従来考えられてきたいもち病菌における付着器形成誘導条件に関する新たな知見をもたらすものであった。 また、タマネギ表皮においていもち病菌胞子懸濁液を接種し、植物細胞への侵入行動を観察した。この際にヒストンを蛍光タンパク質RFPにて標識した変異株を用いることにより核の挙動を観察することができる。一般的には、付着器を形成し、成熟する過程において胞子に存在する全ての核はオートファジー機構により分解されてしまう。しかし、タマネギ表皮における感染の際には、胞子に存在する核の一部は残存していた。このことは、人工基質における付着器形成と宿主植物細胞への侵入における付着器形成においてオートファジー活性や細胞周期制御機構が異なっている可能性を示唆している。これら違いについて次年度は解析を進めて行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境条件の違いに伴う細胞周期の変化を評価するためには、再現性の高い実験条件が重要である。従来までのカバーガラスを用いた実験系においては、結果が安定しないという問題点が明らかとなった。そこで、基板修飾技術を用いることにより、カバーガラス表面に様々な特性を付与していもち病菌の胞子発芽過程を観察した。これまでは親水性表面においては付着器を形成しないとされてきたが、カバーガラスを高度に洗浄した親水性表面においては、安定して付着器を形成する事が判明した。その一方でガラス表面を化学的に親水化した場合では付着器は形成されなかった。さらに、ガラス表面を化学的に疎水化した場合では、付着器を形成することなく菌足と類似した発芽様式が観察された。このことは、付着器形成条件において、親水性・疎水性という条件だけではなく、それよりも上位に制御される付着器形成シグナルが存在していることを明らかとした。 また、いもち病菌胞子をタマネギ表皮上で発芽させた場合、オートファジーに伴う核の分解活性が低下し、胞子内に核が残存する現象が観察された。この結果は、付着器が成熟する過程においてオートファジーが活性化され、胞子の3細胞の核が全て分解されるという人工基質上での反応と異なるものであった。いもち病菌の胞子発芽過程においては、環境条件の違いに応じて、細胞周期の速度を変えると共に、オートファジーなどの活性状態も変化していることを明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に供試した様々な人工基質表面条件において、いもち病菌胞子の細胞周期がどのように変動するのか、細胞観察を継続することにより明らかとする。さらに、同じ親水性あるいは疎水性でも化学的修飾様式の違いによって異なる反応が観察されたことから、表面の硬度や電荷等他の要因についても着目し、付着器形成を制御するシグナル因子の特定を継続する。 また、タマネギ表皮において胞子の核の分解が抑制された現象に関して、宿主侵入に成功した付着器と人工基質上で付着器から貫入できずに留まっている状態の付着器との間で胞子細胞における細胞周期やオートファジー活性の制御が異なっている可能性が考えられた。そこで、付着器を形成し、膜を貫入できるような様々な条件を用意し、それらにおける胞子発芽過程を観察し、胞子における核が分解される過程を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に消耗品の購入を見込んで購入計画を立てていたが、次年度まで購入する必要が無くなったため。
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