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2020 年度 実施状況報告書

植物病原菌の二次代謝産物生合成に依存した寄生・共生および腐生戦略の解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K06053
研究機関鳥取大学

研究代表者

児玉 基一朗  鳥取大学, 連合農学研究科, 教授 (00183343)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード植物病原菌 / 腐生菌 / 共生菌 / 二次代謝産物 / ゲノミクス / 遺伝子クラスター
研究実績の概要

植物病原糸状菌は植物との共進化の結果として、多種多様な二次代謝産物生産能(=生理活性物質多様性創出システム)を発達させてきた。それら化合物は、菌における生存・発病ストラテジーのひとつとして、腐生菌(非病原菌)、共生菌および病原菌を分かつ要因となり、さらに病原菌においてはエフェクター分子として、病原性の分化に大きく寄与している。とりわけ、代表的なネクロトロフ(necrotroph)菌であるAlternaria菌群は、同属中に腐生、寄生および共生系統を有し、菌の多様なライフスタイルを決定する分子機構解明のモデルとなる。本研究では、ネクロトロフ病原菌が保有する極めて多彩な二次代謝産物生合成系に焦点を当て、菌のライフスタイルの変遷・進化と多様性形成の仕組みを、糸状菌ゲノミクスを基盤として解明することを目指した。比較検討のため、Alternaria菌群に加え、他のネクロトロフ病原菌(毒素生産菌)として、Corynespora属、Fusarium属およびCochliobolus属病原菌を使用した。また、典型的なエンドファイト菌として、Epichloe属エンドファイトも対象に加えた。
これらライフスタイルの異なる各種糸状菌を用いた比較・系統ゲノミクス等の解析手法により、ネクロトロフ病原菌、腐生菌および共生菌の生存・発病戦略および多様性形成と進化の過程に、SM生合成遺伝子クラスターが重要な役割を果たし、さらに、遺伝子クラスター・病原性染色体の水平移動が介在する可能性を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請者らは、腐生性系統、寄生性系統を含むAlternaria菌群において、複数株のドラフトゲノム解析データを取得している。本計画では、さらに宿主を異にするCorynespora属病原菌のドラフトゲノム解析を進めるとともに、研究協力者によって取得されたCochliobolus属病原菌およびEpichloe属エンドファイトのゲノムデータを活用して、比較ゲノミクスにより、腐生菌、共生菌、寄生菌、また異なる寄生性の分化を示す菌系間における類似点、相違点をゲノムレベルで比較解析した。従来、解析対象となる機会の少ない腐生性(非病原性)系統についても十分な解析を行う点が、本計画の強調すべきポイントのひとつである。
これら比較対象菌株における、二次代謝産物(SM)生合成遺伝子クラスターの同定とカタログ化を進めた。各種遺伝子クラスターにおいて、より多数のデータをカタログ化し、比較することにより、オーファンクラスターを含む、腐生菌・病原菌・共生菌に特徴的なクラスターをピックアップすることが可能となった。クラスターの数、種類、構成および構造を腐生菌-病原菌-共生菌間、また、病原性系統および種間で比較解析し、類似点と相違点を調査した。その結果、腐生菌あるいは共生菌も多様なSM生合成遺伝子クラスターを保有しているが、特定の病原性系統は、それぞれの宿主植物を加害するための毒素生合成遺伝子クラスターを進化・保持している可能性が示された。これら多種多様なSM生産能が、菌における生存・発病ストラテジーのひとつとして、腐生菌、共生菌および病原菌を分かつ要因となり、さらに病原菌においてはエフェクター分子として、病原性の分化に大きく寄与している可能性が示唆された。
これらの結果から、本研究計画は、おおむね予定通りに進行していると考えられた。

今後の研究の推進方策

対象菌株において、SM生合成遺伝子クラスターの同定とカタログ化をさらに進めるとともに、SM生合成遺伝子群の網羅的機能解析、代謝産物の同定を通して、進化・多様性形成過程の推定を行う。対象とする病原菌、腐生菌および共生菌の保有する各種遺伝子クラスターにおいて、より多数のデータをカタログ化し、比較することにより、オーファンクラスターを含む、腐生菌・病原菌・共生菌に特徴的なクラスターをピックアップすることが可能となる。その後、個々のSMクラスターをターゲットにした機能解析に基づく、菌の生存・発病戦略を決定する実行因子同定のステップに移行する。その具体的手順は以下である。
異なるライフスタイルの菌株間(寄生vs.腐生、寄生A vs.寄生Bなど)の比較により、候補遺伝子をピックアップし、順次、ターゲットクラスターのKO・異種発現を行う。まず、クラスターの中心となるPKS、あるいはNRPS遺伝子等のKOを遂行し、各クラスターの特異的欠失系統シリーズの作成を完了する。また、ターゲットクラスターの人為的な移入と発現を試みる。次に、SM生合成遺伝子クラスター欠失・移入系統の腐生・寄生・共生生活能力の検定を接種実験等により行う。さらに、クラスター欠失・移入系統における代謝産物の化学的同定と進化・多様性形成過程の推定を試みる。機能が推定可能なクラスターに加え、オーファンクラスターに関して、クラスター構造からの産物予測や実際のLC-MS解析などを通して、SMの同定を目指す。これにより、SM遺伝子クラスターから最終産物までの対応が明確となる。
以上の研究結果により、菌のSM多様性創出システムの進化を基盤とした、腐生・寄生・共生生活を決定づける生存・感染戦略、また、腐生菌から寄生菌(あるいは逆)への進化過程、さらに寄生性の分化・多様性形成メカニズムの一端が明らかになることが期待される。

次年度使用額が生じた理由

本年度は、研究計画遂行のため、技術補佐員雇用として人件費、また、調査研究旅費、学会発表旅費等を計上していたが、新型コロナウイルス病流行のため、予定の雇用や出張等が困難となった。この点については、研究代表者および協力者、それぞれ研究グループの大学院生等の連携により研究計画を進行させることによって、一部カバーできた。さらに、本年度は、ゲノムデータ解析などPCとデータベースを活用した計画を重点的に進めたため、試薬等消耗品費を抑制することが可能となった。この差額分に関しては、次年度に本年度実行できなかった計画を含め研究を遂行する予定であり、次年度使用額が生じた。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)

  • [国際共同研究] Cornell University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Cornell University
  • [国際共同研究] AgResearch(ニュージーランド)

    • 国名
      ニュージーランド
    • 外国機関名
      AgResearch
  • [雑誌論文] Identification of methoxylchalcones produced in response to CuCl2 treatment and pathogen infection in barley2021

    • 著者名/発表者名
      Naoki Ube, Yuhka Katsuyama, Keisuke Kariya, Shin-ichi Tebayashi, Masayuki Sue, Takuji Tohnooka, Kotomi Ueno, Shin Taketa and Atsushi Ishihara
    • 雑誌名

      Phytochemistry

      巻: 184 ページ: 112650

    • DOI

      10.1016/j.phytochem.2020.112650

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Mutations found in the Asc1 gene that confer susceptibility to the AAL-toxin in ancestral tomatoes from Peru and Mexico2020

    • 著者名/発表者名
      Tsuzuki, R., Cabrera Pintado, R.M., Kodama, M., Komatsu, K. and Arie, T. et al.
    • 雑誌名

      Plants

      巻: 10 ページ: 47

    • DOI

      10.3390/plants10010047

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Natural variation of diterpenoid phytoalexins in cultivated and wild rice species2020

    • 著者名/発表者名
      Keisuke Kariya, Naoki Ube, Makoto Ueno, Masayoshi Teraishi, Yutaka Okumoto, Naoki Mori, Kotomi Ueno and Atsushi Ishihara
    • 雑誌名

      Phytochemistry

      巻: 180 ページ: 112518

    • DOI

      10.1016/j.phytochem.2020.112518

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] AAL 毒素感受性を決定するAsc1 遺伝子の多様性解析に基づくトマト栽培化・進化に関する研究2021

    • 著者名/発表者名
      都筑 麟・Rosa Maria Cabrera Pintado・児玉 基一朗・小松 健・有江 力
    • 学会等名
      令和3年度日本植物病理学会大会
  • [学会発表] 沖縄県内サトウキビ圃場から分離されたBacillus属菌のサトウキビ黒穂病菌およびバナナパナマ病菌に対する阻害活性2021

    • 著者名/発表者名
      福井瑛士・伊藤通浩・新里尚也・伊禮 信・有江 力・児玉基一朗
    • 学会等名
      令和3年度日本植物病理学会大会
  • [学会発表] 沖縄県内サトウキビ圃場から分離されたサトウキビ黒穂病菌胞子発芽阻害活性を示す細菌2020

    • 著者名/発表者名
      福井瑛士・伊藤通浩・新里尚也・伊禮 信・有江 力・児玉基一朗
    • 学会等名
      令和2年度日本植物病理学会関西部会

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公開日: 2021-12-27  

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