研究課題/領域番号 |
20K06054
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
大西 浩平 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (50211800)
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研究分担者 |
木場 章範 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (50343314)
曵地 康史 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (70291507)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 青枯病菌 / 3型エフェクター |
研究実績の概要 |
植物病原細菌は3型タンパク質分泌装置を介してエフェクターを宿主細胞内へ分泌する。一方、植物は自然免疫であるPTI (pattern-triggered immunity)とより強力なETI (effector-triggered immunity)の免疫系を持つ。エフェクターがPTI、ETIのいずれかもしくは両方を抑制することで細菌は感染を成立させている。ナス科植物等に導管病を引き起こす青枯病菌(Ralstonia solanacearum)OE1-1株は69種類のエフェクターを保持している。本研究は、各エフェクターのPTIおよびETIに対する関与を網羅的に解析し、その機能を明らかにすることを目的とする。我々が構築した50種類のエフェクター遺伝子を欠損させたOE1-1D50Eは、宿主に対する病原性を完全に失っており、エフェクターレス株とみなすことができる。本株をベースに69種類の1エフェクター発現株を構築し、各発現株の宿主植物における増殖能や感染時における抵抗性遺伝子発現を含めた宿主植物の表現型を解析することで目的を達成する。 今年度は青枯病菌間で保存されているcore, next coreエフェクターのうち、17種類の1エフェクター発現株を構築した。いずれの株も宿主であるNicotina benthamiana(ベンサミアナタバコ)に対する病原性を回復することはなかった。また葉に注入した場合においても植物体内での増殖能を示さなかった。また、今年度はイオン漏出についても調べた。タバコに対してHRを示す8107株をポジティブコントロールとして各株をベンサミアナタバコに葉肉注入したときに、2株(RipA5,RipAB発現株)を接種した際に、イオン漏出が見られた。すなわち、この2種類のエフェクターはavirulence factorとしての機能を有していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で利用するエフェクター遺伝子超多重欠損株OE1-1D50EはOE1-1ゲノム上に存在する69種類のエフェクター遺伝子のうち、50個を欠損させたものである。青枯病菌はRalstonia solanacearum species complexと称されるように多様性が大きく、phylotype I, II, III, IVに分類される。各phylotypeに属する株の公開ゲノム情報をもとに、青枯病菌間でよく保存されたエフェクター遺伝子(core effector, next core effector)が提唱されている2)。OE1-1D50E株は30種類のcore effectorおよびnext core effectorのすべてが欠損しており、ナスやタバコなどの複数の宿主に対する病原性を完全に失っていることから、すべてのエフェクター遺伝子を欠損させた株に準じるものとして利用する。 今年度は当初計画していた、残りのエフェクター遺伝子の欠損に先立ち、OE1-1D50E株において、1エフェクター遺伝子のみが発現する株の構築を優先した。30種類の保存されたエフェクター遺伝子のうち17種類のエフェクター発現株を構築した。今年度は宿主植物タバコの葉にに接種した。宿主植物が示す病徴のうち、電解質漏出量、菌株の植物体内での増殖能を測定した。電解質漏出量については、HR誘導株8107をコントロールとして用いた。活性酸素種の測定法はいくつかあるが、より定量的解析が可能なルミノール誘導体L-012の利用を検討した。しかしながら、再現性のある結果が得られなかったことから、もうひとつの測定法であるDAB染色によって評価する系を構築した。以上のことから、研究の年度計画の変更はあったものの、全体的には順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度、先延ばしした欠損株の構築を継続する:欠損株構築用プラスミドは作製済みであり、相同組換えを利用したエフェクター遺伝子欠損を継続し、全エフェクター遺伝子欠損株を完成させる。現在53エフェクター遺伝子の欠損を行っていることから、今年度中にはすべてのエフェクター遺伝子欠損を達成したい。 1エフェクター発現株のナス葉における挙動解析:昨年度は主にタバコを宿主として用いたが、今年度はナスに接種し、表現型解析を行い、タバコにおけるそれとの比較を行う。 1エフェクター発現株の構築:先年度は、17種類の発現株を構築したが、残り23種類についても構築を継続する。方法論は確立されていることから、達成可能である。昨年度はコロナ禍で研究時間も限られていたが、今年度はより加速されるはずである。 昨年度は、感染植物における抵抗性マーカー遺伝子発現解析は全く行わなかった。リアルタイムPCR用のプライマーについては設計済みであることから、1エフェクター発現株をタバコ葉に接種し、サリチル酸シグナルマーカー遺伝子NbPR1およびHRマーカー遺伝子NbHIN1の発現を経時的に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で出張旅費や学会参加費の支出が減ったことと、研究を行える期間が短くなったため次年度使用額が生じた。次年度においては、研究を一層遂行し、試薬・消耗品費、論文投稿料として全額を使用する予定である。
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