研究課題/領域番号 |
20K06067
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
篠田 徹郎 福島大学, 食農学類, 教授 (10355620)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 幼若ホルモン / 集合フェロモン / カメムシ / メチル基転移酵素 / 生合成 |
研究実績の概要 |
本研究はチャバネアオカメムシPlautia staliの集合フェロモンであるMethyl(E,E,Z)-2,4,6-decatrienoate(MDT)の合成に関わるメチル基転移酵素遺伝子を同定しその機能を明らかにすることを目的としている。本年度は、昨年度同定した本種のJHAMT様遺伝子7種(PsJHAMTL1-7;以下単にL1-L7と呼ぶ)について、定量PCRにより発現時期および組織を解析し、候補遺伝子の絞り込みを行った。その結果、全虫体をサンプルとした場合、L1は雄雌成虫および幼虫での発現が確認された。L2は雄成虫で比較的強い発現が認められたが、雌成虫および幼虫ではほとんど発現していなかった。L3は雌雄成虫および幼虫のいずれでも発現が認められたが。L4とL5は類似の発現パターンを示し、雌成虫で強く発現したが、雄成虫と幼虫ではほとんど発現していなかった。L6は雌雄成虫・幼虫のいずれでも発現が弱かった。L7は雌雄成虫および幼虫すべてでやや弱い発現が認められた。組織特異性については、幼若ホルモン(JH)の産生組織であるアラタ体と、昨年度のイメージングMS解析により、MDTを合成する可能性が高いと考えられた臭腺に特に注目すると、成虫のアラタ体においては、L1にきわめて高い発現が認められ、L2とL7にもアラタ体で微弱な発現が認められたが、それ以外のJHAMTLでは発現が認められなかった。一方、臭腺ではL1に微弱な発現が認められたが、他のJHAMTLでは発現が認められなかった。本種は餌を十分に食べた雄成虫のみが集合フェロモンを産生することが報告されていることから、雄成虫特異的に発現するL2がMDT合成酵素の有力な候補と考えられた。また、L2は臭腺での発現が低いことから、MDTは臭腺以外の組織で合成されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、チャバネアオカメムシの7種JHAMTLの中から有力なMDT合成酵素候補遺伝子(PsJHAMTL2)を特定することに成功した。また、アラタ体におけるJH生合成に関わるメインのJHAMT(PsJHAMTL1)を同定した。さらに、PsJHAMTL4とL5は雌成虫特異的な発現をすることから、これまで知られていないユニークな機能を持つ酵素遺伝子である可能性を明らかにするなど、当初予期しなかった副次的な成果も得られている。 一方、GC-MSによるフェロモン分析によって、雄成虫からのMDT同定がうまくできていないため、RNAiによるMDT産生量の低下についての解析が遅れている。 以上を総合的に勘案し、全体としては「やや遅れている」という評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、当初の計画に沿って行う。 本年度明らかにしたMDT合成酵素の有力候補遺伝子(PsJHAMTL2)を中心に、定量PCRによりさらに詳細に遺伝子発現のプロファイル(時期・休眠-非休眠・組織)を明らかにする。また、同遺伝子を中心に雄成虫でRNAiを行い、遺伝子発現量、およびMDTの産生量が低下するか解析を行う。GCーMSによるMDT検出の改良については、現在の実験に用いている飼育虫が、十分なMDTを産生していない可能性があるため、飼育条件を変更した雄成虫や、野外から採取した個体を用いて分析を行う。もし、GC-MSによるMDTの同定が十分に改善されない場合には、RNAiによる解析から、JHAMTL組換タンパク質を用いた酵素活性解析に重点を移して研究を進め、MDT合成酵素遺伝子の同定を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2, R3年度予算において、「旅費」として計36万円を計上していたが、コロナ禍により学会の中止やオンライン化が相次いだために執行できなかった。「人件費」計40万円については、適切な人材が見つからず雇用することができず、当初予定より執行額が少なかった。また「その他」において、計画当初は、RNAseq解析外注のために計80万円を計上していたが、これまでのところ公共データベースからの配列入手によって、RNAseq解析実験が代替できているため、今年度まで実施していない。一方、定量PCRなどの分子生物学的実験用試薬・消耗品が当初の予想以上に多く必要であり、まだRNAi用のインジェクターなど、備品購入のために、「物品費」については当初の予定を上回る執行額となった。そのため、全体としては約97万円の繰越金が生じる結果となった。 次年度も、定量PCR、RNAi、組換えタンパク質作製等の実験において、計画当初の想定を上回る試薬・消耗品の購入が必要であることが見込まれる。そのため、本繰越金は、主に「物品費」として有効に使用し、計画の完遂を目指す。また、延期された国際学会が開催された可能性があり、その場合には繰越金の一部を旅費として使用する。
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