研究課題/領域番号 |
20K06070
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
藤井 毅 摂南大学, 農学部, 講師 (30730626)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ガ類性フェロモン生合成系 / 脂質代謝 / 長鎖脂肪族 / 油滴 / フェロモン腺 |
研究実績の概要 |
ガの性フェロモン生合成経路は、アメリカシロヒトリの様に必須脂肪酸を基本骨格とし酵素による改変を加えてフェロモンを生産するグループと、カイコガやアワノメイガに代表されるアセチルCoAを起点にde novo経路を介してフェロモンを生産するグループの少なくとも2つが知られている。カイコガのフェロモン腺には、性フェロモンであるボンビコール(EZ)に加え異性体(EE)が存在し、EEは弱いながらもオスの触角刺激性を示すこと、油滴と言われる細胞小器官に性フェロモンの原料となる脂肪酸類を蓄積していることは本課題開始時点で既知であった。 当該年度は、必須脂肪酸を介さずフェロモン生産を行なうガ類が過剰な必須脂肪酸を摂取した場合におけるフェロモンの生産量比についての影響をカイコガを用いて吟味した。予め質量分析により同じ単位重量あたり平均して脂肪酸類が桑葉に比べて人工飼料には11倍多く含まれることを確認後、桑葉で飼育した試験区(M区)と人工飼料で飼育した試験区(AD区)のフェロモン量比を比べた。その結果、フェロモン量はAD区の2倍にとどまったがEZとEEの産生比率には両方の試験区間で有意差が見られなかった。 蛍光試薬で染色したフェロモン腺における油滴を顕微鏡下で観察し試験区の相違を比較した結果、AD区の油滴の長軸はM区の約2倍となり、その数はAD区の方が多かった。この結果より、カイコのフェロモン量の調節への油滴の関与を示している。この油滴は、カイコガの同属近縁種であるイチジクカサンのフェロモン腺にも存在した。 上記の進捗に伴い、カイコガのフェロモン腺中の油滴が予想よりも広範なガ類種に保存されていることも示唆された。申請者はフェロモン腺内の油滴の役割について、その種の適切なフェロモン量を生合成するための調節機構の一つであると予想している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画書に従いアメリカシロヒトリを用いて、食餌に含まれる脂肪酸量と性フェロモン生合成量比の関係を結び付けるために、アセトン希釈したω6,ω3脂肪酸を桑葉1枚当たり3ng-3μgの範囲で独立に塗布し与えた。その結果、どちらの試験区においてもアメリカシロヒトリが蛹化せず致死となることが繰り返された。一般に、動物類では必須脂肪酸類の摂取比率の極端な偏りが健康状態に害を及ぼすこと、本課題の予備実験が複数の長鎖脂肪酸を含むキャノーラ油で行なわれたことを合わせて、この結果は本種のω6とω3の摂取比の重要性を示唆している。このことを踏まえた再試験を行なう必要が出た点で、「やや遅れている」との判断に至った。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、アメリカシロヒトリで問題となった摂食時に添加する脂肪酸量比についての検討を行なう。その後、当初の計画に従いde novo経路でフェロモンを生産すると考えられているガ類のうち、系統的にカイコガと離れたアワノメイガを対象に摂食時に取り込む必須脂肪酸類とフェロモン量の相関を調査する。また、中間年度で油滴の役割について、単純に脂肪酸の貯蔵器官にとどまらないことが示唆されたので、これまでフェロモン腺の油滴についてアメリカシロヒトリやアワノメイガのフェロモン腺における油滴を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた飼育補助員の雇用を感染症の拡大防止の観点から断念したことや学会等の出張がオンライン開催となったことが端緒となり繰越金が発生している。一方で、本課題期間の中間年度後半から行動制限が緩和される兆しとなった。このことから最終年度は平時に近い研究体制の構築が期待される。加えて、新たにフェロモン腺中に含まれる油滴の探索も必要となった。これらの理由により次年度使用額を請求した。
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