研究課題
最終年度は、de novoで性フェロモンを生合成するカイコガを用いて、生葉と比較して脂肪酸含有量が多い人工飼料育区(AD)と桑葉育区(M)のフェロモン分泌量を比較し、AD区のフェロモン量がM区の約2倍に留まることを示した。更に同種のフェロモン腺中の油滴を蛍光顕微鏡で観察した結果、AD区の油滴の数と径がM区の油滴と比べて顕著に増加していた。このことから、カイコガのフェロモン腺中にある油滴が、下流のフェロモン生合成酵素系に送り出すフェロモン原料となる脂肪酸量を調節する役割が考えられた。アメリカシロヒトリはカイコと異なるフェロモン生合成系を採用しており、性フェロモン4成分を必須脂肪酸であるリノール酸(LA)とリノレン酸(ALA)から直接生合成する。AD区で飼育した本種のフェロモン腺中に、カイコガ類で見られた油滴は確認できなかった。AD区、M区に加えブドウ葉(G区)とカキ葉(P区)を追加し、食餌中の脂肪酸量とフェロモン比を調査した。食餌の脂肪酸分析より生葉3種の各種脂肪酸含有量に顕著な差はなかったが、AL:ALAは生葉3種が約1:3な一方で、ADは2:1であった。各試験区の性フェロモン分泌量はAD区がもっとも多く生葉3区の約2倍多かった。本種のフェロモン4成分のうち、アルデヒド2種はそれぞれLAとALAに由来するが、生葉の中でG区のみLA由来の成分が顕著に高く、餌の脂肪酸量がフェロモン成分に影響する実例を示した。この事を、濃度依存的にLAを塗布した桑葉育により確かめた。なお、高濃度側では単成分の必須脂肪酸の過剰摂取は哺乳類と同様に個体の失調及び致死に至った。本課題より、ガの性フェロモンの生合成機構の違いによらず「非酵素的」かつ「脂肪酸の摂取量」の視点から、性フェロモン生産量の上限が示唆された。今後は、フェロモン腺中の油滴が見えない種の酵素系への脂肪酸供給機構を考える必要がある。
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Journal of Insect Physiology
巻: 142 ページ: 104440~104440
10.1016/j.jinsphys.2022.104440
https://sites.google.com/view/setsunan-lae/