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2020 年度 実施状況報告書

植物の誘導抵抗性における蓄積物質の機能解明:耐虫性の発現に寄与するのか?

研究課題

研究課題/領域番号 20K06075
研究機関高知大学

研究代表者

手林 慎一  高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 教授 (70325405)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードジャスモン酸 / 誘導抵抗性 / スイートピー / ハスモンヨトウ / β-アミノプロピオニトリル / isoxazolin / 摂食阻害
研究実績の概要

誘導抵抗性による「害虫防除技術は開発可能か?」という応用研究上の疑問と同時に,誘導抵抗性における「化学物質の蓄積」が耐虫性に寄与するか否かは不明瞭なままである。そのような中、申請者はジャスモン酸がスイートピーにチョウ目害虫(ハスモンヨトウ:Spodoptera litura)の幼虫に対する抵抗性を誘導することを見出し、この抵抗性が摂食阻害物質に基づくことを確認したことから、これの詳細な解析を行った。具体的には、スイートピー葉をJAで処理すると,処理前後で特定の物質が増加し,摂食阻害活性が誘導されることから,この成分を抵抗性因子であると推定し,天然物化学的解明を行った。すなわち,誘導物質Xを液-液分配分画およびODSカラムで精製し、単離した物質Xを機器分析に供した。その結果、LC-MSおよび13CNMR及び1HNMRによる分析結果からC6H6O2N2(MW:138)と推定され、詳細な検討から物質Xを2-cyanoethyl-isoxazolin-5-one (2-CEIX)と同定した。2-CEIXはレンリソウ属の植物に含まれるβ-アミノプロピオニトリルの一種であり、哺乳動物に対して痙性麻痺を引き起こすことが知られているが、昆虫に対する作用は報告されていない。そこで、2-CEIXの抵抗性への関与を確認するために,2-CEIXをスイートピーに塗布しハスモンヨトウ幼虫に与えたところ摂食阻害活性を示し,直接幼虫に塗布すると強い致死活性を示した。これらのことから,2-CEIXはJAによって誘導蓄積するスイートピーの化学的抵抗性因子であることが確認された。2-CEIXなどβ-アミノプロピオニトリル類は哺乳動物に対する毒成分として知られていたが,昆虫に対して毒性を示す初めての例となり,誘導蓄積物質が耐虫性の発現に実際に寄与することが示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2020-2021年度に誘導抵抗性の特定を目指す予定であったが、1年を待たずして抵抗性物質の同定に成功したため、予想以上に研究が進展したものと判断した。さらにスイートピー以外にも誘導抵抗性を発現する植物-エリシターの組み合わせを見出したことからも研究は予想以上に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

現在までに、JA処理でスイートピーに誘導される摂食阻害物質を2-cyanoethyl-isoxazolin-5-one (2-CEIX)と同定した。そこで計画に基づいて以下の実験B・Cを行うが、本研究で見出した2-CEIXは市販されていないため栽培して植物から調整する必要が生じた。そこで、新たに項目A「2-CEIXの調整」を設置し研究を遂行する。
A. 2-CEIXの大量調整:スイートピーを施設および野外圃場で栽培し、地上部を採集した後に、既報の手法を一部簡素化した手法を開発し2-CEIXの大量調整を行う。これを実験項目B及びCの実施に資する。
B.摂食阻害物質の特性解析:誘導抵抗性物質のスイートピーにおける生態的機能・生理的特性を解明する。(B-1)活性スペクトル解析: スイートピーの害虫(4種)に対する活性物質の抵抗活性(致死、摂食阻害、産卵阻害など)の有無や程度を評価する。(B-2)植物での誘導動態解析: 複数種のスイートピー品種に対して、JA処理による活性物質蓄積の時間的変動やJA濃度依存性などを、主にLC-MSMSによって分析する。
C.実効性評価:ポット植えスイートピーに対してJAを処理し活性物質の時間的・空間的な発現動態を解明する。さらに前項(B-1)の結果を基に処理スイートピーを害虫に暴露し、植物保護への実効性を評価する。
これらの実施によって、ハスモンヨトウの寄主植物であるスイートピーの誘導抵抗性の天然物化学的を分子レベルで解明することで、生態学的な役割を解明することができる。さらに、2-CEIXの各種害虫への生理的影響の追及や殺虫スペクトルや防除率などの評価をもとに害虫防除への実用利用の可能性を探る。さらにカスミソウにおける誘導抵抗性因子についても天然物化学的な研究を行うことで、誘導抵抗性に基づく害虫防除への実用化研究を進展させる。

次年度使用額が生じた理由

2020年度は新型コロナ禍のため、研究推進上予定してた研究補助員の雇用や学会参加、一部の圃場試験準備などが行えなかった。該当の研究については本年度実施予定である。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Induction of 2-cyanoethyl-isoxazolin-5-one as an antifeedant against the tobacco cutworm (Spodoptera litura) by jasmonic acid in sweet pea leaf2020

    • 著者名/発表者名
      Tebayashi Shinichi、Moriyama Ruri、Arakawa Ryo、Sato Masashi
    • 雑誌名

      Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

      巻: 84 ページ: 1105~1112

    • DOI

      10.1080/09168451.2020.1724072

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 植物の誘導抵抗性と害虫防除2020

    • 著者名/発表者名
      手林慎一・森山瑠理
    • 雑誌名

      昆虫と自然 2020年7月号

      巻: 55(8) ページ: 33-36

  • [備考] 高知大学農林海洋科学部化学生態学研究室 研究紹介

    • URL

      http://www.cc.kochi-u.ac.jp/~tebayasi/plants.html

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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