クロマルハナバチの雌において,変態期の脳内ドーパミン量の変化とドーパミン合成酵素・受容体遺伝子の発現量を調査し,カースト間で比較した.脳内ドーパミン量の変化はカースト間で類似しており,蛹期中期まではカースト差が無く,蛹期後期に女王の量が多くなった.ドーパミン合成酵素遺伝子や受容体遺伝子の発現量は変態期後期に増加したが,カースト間で有意な差は検出できなかった. 次にクロマルハナバチ雌の羽化後におけるドーパミンの行動への影響を調査した.まず歩行活性,飛翔活性,光による選好性についてカースト間で比較したところ,女王において歩行・飛翔活性が加齢に伴って有意に高くなり,光に対する選好性も高くなった.そこで行動に違いが見られた8日齢のワーカーを用いて,ドーパミンの投与実験を行ったところ,ドーパミンを投与した個体の歩行活性が有意に高かった.また,投与したドーパミン濃度に対して,歩行・飛翔活性との有意な相関,光に対する選好性との有意な相関が見られた.さらに未交尾女王にドーパミン受容体ブロッカーを投与した場合に,女王の交尾受入活性が低下した.これらの結果から,ドーパミンは雌の出巣や交尾に関わる行動活性を高めることが検証された. ハナバチ類とは独立に社会性を進化させた分類群であるアシナガバチ類4種において,羽化直後の脳内ドーパミン量のカースト差を調査した.4種のうち3種において,羽化直後のドーパミン量にカースト差が見られなかったが,ドーパミンの前駆物質であるDOPAやチロシンでは,女王(生殖虫)で脳内量が多かった.さらに巣の創設期における生殖虫の脳内ドーパミン量が羽化時の5倍以上多く,前駆物質量は有意に減少した.これらの結果から,アシナガバチの生殖虫は羽化直後に脳内ドーパミンの合成をワーカーと同程度に維持し,創設期にドーパミン合成を盛んに行うことが示唆された.
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