研究課題
食植性昆虫の寄主依存性、寄主転換と環境適応の関係を明らかにすることを目指し研究を進めてきた。寄主選択・利用には、様々な要素・段階が介在するが、本研究では特にカミキリムシ等の定位・定着、配偶行動、産卵選好性における生態情報利用と環境としての寄主植物の関係に着目してきた。材料のひとつゴマダラカミキリ成虫は幼虫期の寄主樹木の匂いを好むことが知られる。一方、本種は広食性であるが草本植物の中で唯一イタドリを寄主として利用する。樹木発生個体とは異なり、イタドリからの発生成虫は非発生寄主の匂いにもよく定位するなど。イタドリ発生成虫の利用成分と反応特性、さらに樹木発生個体に比した振動・視覚要因への依存性の高さなどから、イタドリ発生の本種は樹木発生の本種とは異なる生活史戦略・配偶戦略をとることが明らかになってきた。なお発生個体の小型化などから、イタドリは寄主樹木環境悪化時の緊急避難的な寄主であると推測してきたが、イタドリ・樹木発生雌のイタドリへの産卵選好性などから、じつはイタドリが短期的には生育に適した環境であり、”積極的な選択肢”である可能性が浮上した。このほか本研究では、複数の侵略的外来種の生態を調査し、さらに寄主選好性に関わる要因の解析を行っている。特定外来生物クビアカツヤカミキリについては寄主上での産卵場所決定にかかわる要因を解析した結果、表面粗さを表す特定のパラメータと雌の産卵場所決定との関わりなども明らかになってきた。カミキリムシ類の寄主選択は、寄主の物理要因や植物への遭遇時期などがかかわること、また有る世代から従前とは異なる性質の寄主に移行することで生活史も変化する。すなわち寄主環境への適応が、生息地でその系統にとって有利となるときに、永続的に新寄主での生活が定着するものと推測した。
3: やや遅れている
2020-21年度には新型コロナ感染拡大の影響により研究室利用、研究材料調達、協力者との連携、また調査のための遠征などに支障が発生し研究に遅れが生じた。また2021年度は採集地の環境激変により一部計画が予定年度の実施が不可能となり計画を変更した。これらの問題は2021年以降、年度が進む毎に徐々に軽減・解決し、臨時雇用者・研究協力者の助力、また新規の材料・県外調査地の開拓調査が奏功したことなどから、研究は徐々に加速した。以上のように2023年度までに興味深い知見を得てきたものの、コロナ禍の影響などによる研究計画の遅れを完全に取り戻すまでには至らなかったことから、研究過程の一部を2024年度に行うこととなった。
これまでの研究過程で残された課題、また浮上した疑問を解決するための調査・実験を予定している。ゴマダラカミキリでは幼虫の草本寄主内部での移動・発生に関する調査を行う。またこれまで進めてきた外来カミキリの寄主利用、とくに産卵・食樹間移動などの調査において仮説検証のための追加調査を行う。一方、宮古島のある種のコガネムシの情報利用システムについてすでに深谷らが様々な報告を行っていたが、調査地と、調査地以外の同島内の同種とは、寄主・情報依存性などが著しく異なる可能性がごく最近浮上した。現地調査を行い、発生動態、寄主選択の後天的・遺伝的背景を検討する予定である。以上などの実験・調査のほか、2024年度にはこれまでにえた実験・調査によるデーターの統合解析を進め、研究成果公表・論文の準備、投稿などを行う予定である。
新型コロナ感染拡大により、設備利用、実験資材調達、移動、協力との連携など様々な面で困難が発生し計画が遅れた。このため購入を計画していた資材も一部を除き購入せず、臨時雇用も行わなかった。研究協力先や材料捕獲・調査地への移動(とくに遠方)は極力控えざるを得ず、また学会も殆どがオンライン大会となったため旅費の利用も予定に比して少なかった。2022-2023年度は臨時職員の協力のもと行動解析実験、野外調査なども行ったが、特に最初の2年間の計画の遅れによって雇用、遠征、物品購入も一部先送りになり、結果的に次年度使用額が発生した。2024年度は近隣での調査。福島県、沖縄県など遠征を伴う現地調査、研究公表準備、学会参加・論文投稿などのために経費を使用する予定である。
すべて 2024
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
樹木医学研究 Tree and forest health. 28(1):2024,p.11-13.
巻: 28 ページ: 11-13
Insects
巻: 14(11)-863 ページ: 1-12
10.3390/insects14110867