研究課題/領域番号 |
20K06081
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
太田 広人 崇城大学, 生物生命学部, 准教授 (60450334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カイコ / 摂食行動 / ドーパミン受容体 / GPCR / 農薬 |
研究実績の概要 |
カイコの摂食行動を制御しているドーパミン(DA)受容体5種類の細胞内シグナルの同定と幼虫個体での役割を調べてきた。細胞シグナルが唯一未同定だった受容体BmEcDopRの培養細胞発現系でのシグナル解析を行った。CaアッセイやcAMPアッセイではDAに対する応答が見られず、他のアミンも試験したが同様の結果だった。アッセイ感度に問題があると考え、ルシフェラーゼベースのcAMPバイオセンサーで検出を試みた。ホストのHEK-293細胞が剥離しやすく、細胞を接着させながらDAを処理するとデータがばらついた。そこで、細胞を懸濁させてDAと作用させると、DA濃度依存的なcAMP由来の発光が観察できた。とはいえ応答はまだ微弱であるため、引き続き条件検討を進める。BmEcDopRには2種類のアイソフォームが存在するが、一つ目の応答が安定すれば、もう一方の解析にも着手する。 本研究では、DA受容体を介してカイコの摂食行動を制御する化合物の探索も計画に入れていた。摂食行動に最も影響していると考えられる受容体BmDopR2に絞り、スクリーニングを進めた。その結果、フルペンチキソールやその類縁化合物がBmDopR2にアンタゴニストとして作用し、摂食行動を強く抑制することが分かった。加えて、計算化学的な手法により、活性化合物の量子化学的特徴づけ、分子構造と電子状態との相関性を見つけ出し、より高活性な化合物をバーチャルでスクリーニングする手法も開発できた。 DA受容体とカイコの摂食行動との関係性を明らかにするために、ゲノム編集実験の導入を進めた。卵に薬液を注入するための装置のカスタマイズが難航していたが、それも概ね完了した。この実験には、相応のテクニックと練度が必要であり、まだ安定したデータを得るには至っていない。次年度はスキルを上げ、摂食行動への関与が大きいBmDopR2と3のゲノム編集を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高感度のアッセイ法を導入したことで、BmEcDopRのcAMPシグナルを検出できた。しかし、応答が微弱であったため、データの再現性含め、条件検討に多くの時間を費やした。データが安定しないことから、1つのアイソフォームに絞ってアッセイを行ってきた。そのため、もう一方のアイソフォームの機能同定が遅れている。コロナの影響もあり、研究初年度からゲノム編集の装置導入と技術習得が遅れてしまった。加えて、ゲノム編集の実験で安定したデータを得るには、実験者の技量とサンプル(卵の形状など)に合わせた装置のカスタマイズが必要となり、それにかなりの時間を要した。結果、ゲノム編集実験が本研究の中で特に遅れているため、次年度はこの部分の実験を急ぐ。
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今後の研究の推進方策 |
まずはBmEcDopRのシグナル解析を進める。アイソフォーム間で機能に違いがあるのかどうかも調べる。BmDopR2に絞って、摂食行動を制御できる化合物のスクリーニングと、計算化学によるデータも集積してきたので論文化を急ぐ。幼虫個体に生体アミン関連化合物を投与した時の摂食行動への影響について調べた実験データも整ったので、その内容についても論文化を進める。また本研究で最も遅れているゲノム編集実験を加速化する。そのためにも、微量薬液をカイコの卵に的確に注入できるよう技量を上げつつ、摂食行動への影響が大きいBmDopR2と3のゲノム編集実験を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で、研究初年度から、装置のセットアップとカスタマイズ、実験技術の習得に予想以上の時間がかかってしまった。そのため、想定よりもカイコ飼育費とゲノム編集実験にかかる消耗品費の出費が少なく、直接経費に次年度使用額が発生した。予定していた学会や打ち合わせもすべて見送ることとなり、計上していた旅費が余った。 次年度は、ゲノム編集実験を加速化させる必要があるため、カイコ飼育費とゲノム編集実験にかかる費用にこの繰越残金を充てていく。これまでの研究成果を公表するために、学会参加費(対面実施の場合は旅費を含める)や論文投稿・掲載料等にも充てていく。
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備考 |
崇城大学 研究業績データ http://rsrch.ofc.sojo-u.ac.jp/sjuhp/KgApp?kyoinId=ymdegbooggy
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