本研究では、難培養細胞樹立昆虫を用いて人為的ストレスなどの刺激を利用した新規培養細胞の樹立と新しい樹立プロトコルの確立を目指した。また既に樹立されている培養細胞を用いて培養細胞樹立に関与している遺伝子を探索し、樹立方法にフィードバックすることを目指した。 (1)難培養細胞樹立昆虫であるエンドウヒゲナガアブラムシなどを用いた新たな初代培養系を検討した。培養開始前または培養開始後に熱処理、低pH処理、高浸透圧培養液処理を施したり、培養液量、培養液の粘性などについて検討した結果、組織サンプルに対する培養液の量をコントロールすることで、初代培養初期の細胞誘出がより良好になることが分かった。これらの結果を参考に、新たな昆虫細胞初代培養用培養液を開発し、また培養方法を改良した結果、培養細胞の樹立が困難だったカメムシ目やハチ目昆虫の初代培養期間が延長され、現在も継続中である。(2)ハスモンヨトウとハスモンヨトウ由来培養細胞を用いて、組織と培養細胞の遺伝子発現解析を行なった。解析には血球、皮膚及び脂肪体由来培養細胞とそれぞれの由来となった幼虫組織を用いた。RNA-seqを行いその結果からクラスター分析を行ったところ、組織対培養細胞という二つのクラスターに分かれることが分かった。また細胞系と由来組織との遺伝子発現量の比較を行った結果、3種の培養細胞で共通して高発現して992個のDEG(発現変動遺伝子)を検出した。それらの遺伝子を精査したところ、複数の哺乳類がん化関連遺伝子のオーソログがリストアップされた。また、これら遺伝子が培養細胞樹立に関与しているかを検証するために、ハスモンヨトウ幼虫体液を用いたex vivo評価系の構築を行なった。
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