研究課題/領域番号 |
20K06084
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
杉本 貴史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 契約研究員 (20726707)
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研究分担者 |
佐原 健 岩手大学, 農学部, 教授 (30241368)
陰山 大輔 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 上級研究員 (60401212)
長峯 啓佑 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, JSPS 特別研究員 (20817548)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オス殺し / 性比異常 / アズキノメイガ / 性決定 / W染色体 / B染色体 / ゲノムコンフリクト |
研究実績の概要 |
性決定の最初のシグナルとなる因子(性決定カスケードの最上流因子)は進化の過程で変化しやすく、その性決定因子を内包する性染色体もまたダイナミックな進化に晒されている。本課題では、チョウ目昆虫アズキノメイガの種内で生じた性を歪める因子(SR因子)により、本来の性決定遺伝子機能が無効化ないし歪曲化されていると考えられる事例の解析を通じて、SR因子の実態や機能を解明し、性決定をめぐるゲノムコンフリクトの実態に迫ることを目的として課題を遂行している。 本年度は、SR因子の実態が、新規に生じたW染色体もしくはW染色体上の因子に由来する可能性、新規に生じた第三の染色体であるB染色体に由来する可能性、その他の外来因子に由来する可能性の検証を行うことで、その実態に迫る研究展開を試みた。その取り組みとして、組織観察を通じ、SR系統がW染色体に相当する染色体を保有することを確認したため、その検出を可能にするマーカーの作出に取り組んだ、通常系統において獲得されたW染色体マーカーのシーケンスデータを基にSR系統でもメスのみで増幅可能なプライマーの作出を進めた。現在、SR系統におけるW染色体断片と思われる増幅産物の獲得に成功しているが、その実態については今後さらなる検証が必要である。 一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置として研究所・研究室への立ち入り制限や移動制限等があり、共同研究体制の構築や遂行に問題が生じたことや、本申請課題の遂行に必須であるSR因子保有系統が断絶するなどの問題が生じたため、研究の進捗は遅れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究開始当初に新型コロナウイルス感染症拡大防止措置として、研究室出入り制限などがあり、非細菌性の性を歪める因子(SR因子)を保有したアズキノメイガ系統が断絶したため、研究に遅れが生じた。2020年度の上半期は新規SR因子保有系統の野外採取・選抜を行い、新規に系統を確立することに成功したため、現在は、研究遂行可能な状態に回復している。W染色体仮説を検証するためのW染色体マーカーの作出については、通常性比系統で作出したマーカーがSR因子保有系統では機能しないといった問題が生じたが、これはSR因子保有系統と通常系統でW染色体の配列・構造に大きな違いが生じていることを示唆する結果であり、ゲノムコンフリクトが生じている可能性も含めて、現象としては興味深い。また、最終的な目標であるSR因子の実態に迫る解析に向け、解析技術の習得に努めるなど、今後の研究展開を通じて、遅れを取り戻すための取組みに鋭意取り組んできた。
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今後の研究の推進方策 |
SR因子を保有するサンプルの喪失により研究計画に遅れが生じているが、その回復に努めた結果、現在では安定的に維持できる体制となっている。そこで、本年度は、SR系統におけるSR因子の候補となる配列の決定と、SR系統におけるW染色体マーカーの検出に注力することで、その実態に迫る研究展開を加速化する。また、SR因子候補の配列については、比較ゲノムハイブリダイゼーション法などで染色体上の推定される位置情報を解析し、SR因子の実態に迫るのと並行して、SR因子とW染色体の関係についての推定を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大防止措置の継続により研究計画に遅れが生じたが、研究開始当初の環境整備等は滞りなく進んだ。そのため、研究実施に要する試薬・キット類の一部のみ次年度への繰越となったため繰越額はあまり大きくない。本年度は、SR因子の解析のためのハイブリダイゼーション関連試薬、NGS解析外注費用に加え、遺伝子機能解析に向けた準備などを含む分子解析に用いる試薬・キット類の確保のための予算を見込んでいる。
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