研究課題
本課題の全期間がパンデミックと国際情勢の影響を受けたため海外調査を行うことはできなかったが,極東ロシア,中国,韓国等の共同研究者と植物試料やデータを相互提供することで,計画した研究を実施することができた.本研究課題の最も重要な学術的成果として,日本列島,朝鮮半島,中国東北部,極東ロシアに共通する植物が,その分布域が日本海周りに環状をなすことを背景として,種の分布拡大過程とその後の二次的な遺伝子流動により東北アジアスケールで円環する空間遺伝構造をもつ事例を,独立の複数系統(エゾマツ類,ハルニレ)で明らかにした.これは,申請者らの先行研究で示された事例(エンビセンノウ,エゾムラサキツツジ-ゲンカイツツジ種複合体)と合わせ,東北アジアスケールで希少植物の進化的重要単位を考えるうえで重要な示唆を与える.また,保全遺伝学的研究においてほとんど議論されていない,絶滅系統との過去の交雑による適応遺伝子の浸透を介した種内系統・保全単位の分化の事例(ソテツ‐タイワンソテツ種複合体)を示した.さらに,保全単位設定の根拠として,従来の中立遺伝子座の空間遺伝構造や近年取り組まれている機能遺伝子座の空間遺伝構造と異なる視点として,適応への寄与が確かな表現型の地理的分化に注目し,環境適応に関わる機能性をもつ化学成分の同種内における地理的変異の有無(イワオウギ)を調べたことは,保全研究における新たな試みと言える.そして,これらの保全研究の基礎として,北海道・日本の複数の絶滅危惧植物(ヤチカンバ,ユウバリクモマグサ,シベリアイワブキ類など)について分類整理,固有性と保全価値の検証を行った.最終年度に,国際共同研究の相手方機関主催の国際シンポ(北京)で招待講演を行ったこと,国際学会(大阪)において国際共同研究者と発表賞を受賞したことなども,保全研究における東北アジア近隣国との協力推進の成果と言える.
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Journal of Biogeography
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