研究課題/領域番号 |
20K06088
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
殿内 暁夫 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (50302021)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多糖の構成 / 生息環境 |
研究実績の概要 |
白神山地のブナ樹皮から分離したArmatimonadetes門Capsulimonas corticalis AX-7株の機能・生態の解明を試みる。2020年度に明らかにしたのは以下の通りである。 AX-7の生育は中温性・好弱酸性・好気性で、硝酸呼吸能はなく、炭素源としては種々の単糖・二糖・多糖を利用し、窒素源としてはアンモニア・硝酸・カザミノ酸を利用した。紫外線には感受性であったが、乾燥に対しては耐性を示し、とくにコロニー状態では少なくとも1ヶ月の乾燥に耐えた。これは、細胞を包む分厚い粘性物質の効果であると予想された。ガラスやプラスチックなどへの附着能はなかったが、予備的な実験により木材への附着能を有する可能性が示された。AX-7の生産する多糖は炭素源をマンノースとした場合に促進された。多糖はグルコース・ガラクトース・マンノース・キシロースで構成される中性ヘテロ多糖であり、その粘性はグアーガムに相当するほど高いものであった。 16S rRNA遺伝子をターゲットとしたメタゲノム解析により、Armatimondadetes門の中ではAX-7の所属するCapsulimonadia目がイタヤカエデ、ウダイカンバ、ブナ、ホオノキ、ミズナラ、スギおよびカラマツなどの樹皮と強く関連していたが、ヤマナラシとの関連性は極めて低かった。AX-7およびAX-7と同種である分類群はヤマナラシ樹皮からは全く検出されなかったのに対し、ウダイカンバ・スギ・ブナの樹皮で多く検出され、Armatimonadetes門の10%以上がAX-7およびその同種であった。特にスギでは約60%を占めており、C. corticalisとスギとの強い関連性が予想された。 以上に加えて、ブナの樹皮から新たに、C. corticalisと属レベルで近縁な株の分離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた計画の80%は順調に進捗している。しかしながら、AX-7の生産する高粘度多糖が阻害要因となり、RNAseq解析・ゲノム解析が当初予定したよりも順調に進んでいない。今後の解析には多糖の生産抑制条件を設定することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
AX-7はブナから分離され、メタゲノム解析解析でもブナに生息するArmatimonadetes門の主要種であることが示されたが、今回、分離源のブナよりもスギと強い関連性を示すことがわかった。また、AX-7の所属するCapsulimonadia目とヤマナラシとの関連性は低く、AX-7とその関連種はヤマナラシには検出されないという興味深い結果が得られた。今後は、対象とする樹種をブナ・スギ・ヤマナラシに絞り、メタゲノム解析によりAX-7と樹種との関連性の詳細を明らかにしていく。 培養法による諸性質の解析ではAX-7の主要な特徴である多糖生産が解析の阻害要因になっている。この多糖は極めて粘度が高く、培養液や細胞から分離することが非常に難しい。ゲノム解析やRNAseq解析、および代謝物解析を順調に進めるために、多糖生産を抑制する条件の検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
AX-7の生産する極めて粘度の高い多糖が阻害要因となり、RNAseq解析と全ゲノム配列の決定ができなかったことが理由である。多糖生産の抑制条件を検討した上で解析を進めるため、条件検討用の消耗品(培地成分・培養容器など)に充てる。
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