多雪に特徴づけられる東北地方の冷温帯林において、シカ・イノシシ・サルの分布回復が近年顕著である。これらの種の採食に伴う攪乱が、在来生態系の多種共存にもたらす影響を抽出することを目的に、昨年度に引き続き以下の評価を実施した。 ①多雪地における木本植物を対象としたシカの採食痕評価:過年度と同様に、シカの個体群密度が高まりつつある福島県南会津町にて、2023年3月上旬(残雪期)に、ベルトトランセクト(合計170km)を山スキーで踏査し、木本植物につけられたシカの採食痕を記録した。その結果、合計で418個体の採食痕、計65種を記録した。2023年は典型的な寡雪年で、全採食個体のうち、相対出現頻度が10%を超えるの樹種はキブシのみで、極めて強い広食性を確認した。これまでの成果から、積雪量の影響で利用可能な食物の変動はあるものの、行動圏内に分布する利用可能な植物を日和見的に採食している傾向が強いことが示唆された。 ②イノシシの掘り起しに伴う動物相・植物相の変化:朝日山地において、異なる景観を持つ3林分において、120か所の人工掘り起しを2019年に用意した。2022年においても、春から秋にかけて、継続的に発芽した木本・草本を記録した。これまでの成果から、景観タイプに関わらず、短期的には攪乱によって種の多様度がいずれの林分でも高まるものの、その効果は広葉樹(ブナ林)では継続しにくいことが明らかになった。 ③木本植物を対象としたニホンザルの採食痕評価:過年度と同様に、白神山地(青森県西目屋村)にて、2023年3月下旬に実施した。平年並みの積雪であったものの、痕跡数は例年より少なく、寡雪地に痕跡が集まる傾向がみられた。2022年の豪雪により、群れ数・個体数に影響が発生したことが採食場に変化をもたらした可能性が考えられた。一方で、樹種選択性については変化が確認されなかった。
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