研究課題/領域番号 |
20K06090
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐伯 いく代 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70706837)
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研究分担者 |
石井 弘明 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50346251)
東 若菜 神戸大学, 農学研究科, 助教 (20780761)
長田 典之 名城大学, 農学部, 教授 (80400307)
太田 民久 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (60747591)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 森林 / 老齢木 / 無脊椎動物 / 伐採 / 人為攪乱 / 生態系管理 / 保全 |
研究実績の概要 |
林冠は、野生生物の生息場として重要な生態系である。しかし調査が難しく、保全や管理に関する知見の乏しい空間である。そこで本研究では、林冠の生物相を明らかにし、保全のための基礎情報を得ることを目的とした。具体的には、樹上に堆積した林冠土壌に着目し、そこに生息する無脊椎動物群集の特徴を調べ、地表群集と比較した。調査は、屋久島のヤクスギ林にて実施した。調査地内のヤクスギのうち、樹齢1000年以上と推定される老齢木5個体と伐採後に更新した樹齢300年程の若齢木4個体を選び、1調査木あたり高さの異なる2地点から林冠土壌を採集した。老齢木の樹上からは、主にスギの落葉の堆積した腐植層と、その下部に発達した粒径の細かな層よりそれぞれ一定量の林冠土壌のサンプルを採集した。若齢木は、林冠土壌の堆積深度が浅かったため、層を区分せずサンプルの採集を行った。さらに各調査木の根元付近において、地表のリター層とA層の土壌を採集した。採集後、ツルグレン法を用いて土壌内の無脊椎動物を抽出し、ミトコンドリアDNAのCOI領域を対象としたDNAメタバーコーディング解析を実施した。検出された塩基配列を調べたところ、採集サンプル全体から、33目183科の陸生無脊椎動物の配列が検出された。このうち老齢木の林冠土壌からは、1サンプルあたり約12目28科の生物群が検出され、地表の土壌の値(約11目32科/サンプル)と同程度の多様な種類の生物が生息していた。一方、若齢木は林冠土壌の堆積量が少なく、無脊椎動物の多様性(約9目11科/サンプル)が低い傾向がみられた。また、科の組成を比較したところ、樹上の生物群は地表のそれとは明瞭に異なっていた。これらの結果から、ヤクスギ林の老齢木の林冠土壌には地表土壌の群集とは異なる豊かな無脊椎動物群集があり、その多様性は、伐採後約300年が経過しても完全に回復しないことが明らかにされた。
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