研究課題/領域番号 |
20K06092
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下野 嘉子 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40469755)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 外来植物 / 分布 / 適応 / 選択圧 / 砂浜 |
研究実績の概要 |
主に農耕地に分布し、牧草や緑化植物と遺伝的に類似する集団を農耕地系統、主に砂浜に分布し、輸入穀物混入種子と遺伝的に類似する集団を砂浜系統とする。以下の実験には、兵庫県の農耕地と砂浜から採集した両系統の種子を用いた。 1) ファイトトロンにおける耐乾性の比較: 春化処理を施した実生を25C/15Cに設定したファイトトロン内において0.4から8.0 mL/日の13段階の水分条件で栽培し、出穂まで生死を記録した。水分量1.0 mL/日の実験区において、農耕地系統は砂浜系統よりも有意に死亡率が高く、農耕地系統は砂浜系統よりも耐乾性が低いことが示された。 2) 砂浜における移植実験: 過去に実施した実験から、砂浜系統は4月下旬から5月上旬に出穂する一方、農耕地系統の出穂は砂浜系統よりも2週間ほど遅く、砂浜に移植した農耕地系統は出穂期に高い死亡率を示すことがわかっている。出穂期の違いが砂浜における系統間の適応度に違いをもたらす要因なのかを実証するため、三重県津市の砂浜海岸において移植実験を行った。農耕地系統、砂浜系統の他、早生品種ワセユタカの実生を2020年11月に各系統25個体6反復移植し、2週間ごとに生死と出穂の有無を記録した。結実期である2021年6月まで調査を継続し、結実率も測定する予定である。ワセユタカは農耕地系統と遺伝的に類似しているが、開花期が砂浜系統と同時期の牧草品種である。これらの出穂期、死亡率、結実率を比較することによって、農耕地系統の死亡率や結実率が出穂期によって低下するのかを明らかにする。 3) 砂浜海岸におけるネズミムギの分布状況調査: ネズミムギの出穂時期にあたる5月後半から6月にかけて関西から九州の砂浜海岸15箇所を訪問し、ネズミムギの分布状況を記録した。9割の砂浜海岸でネズミムギが蔓延しており、西日本の砂浜にネズミムギは普遍的に生育していることを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年春はコロナ禍による外出自粛のため、フィールドワークは調査範囲をせばめて実施した。2021年度は2020年度に調査が不十分であった関東から東北地方を重点的に調査する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) 砂浜における移植実験: 前年度に三重県津市の砂浜に移植した農耕地系統、砂浜系統、早生品種ワセユタカ個体の生死と出穂の有無を6月まで継続して観察し、生存個体に関しては結実率を測定する。 2) 砂浜海岸におけるネズミムギの分布状況調査: ネズミムギの出穂時期にあたる5月後半から6月にかけて関東から東北の砂浜海岸を訪問し、ネズミムギの分布状況を記録する。北海道にはネズミムギはほとんど生育していないため、調査対象からは外す。また、砂浜の環境条件(砂浜の規模、人による利用状況、海浜植物および外来植物の生育状況、砂の塩分濃度と窒素濃度)を測定する。ネズミムギが生育していれば葉を採集しDNAを抽出し、混入系統と栽培系統どちらが生育しているのかをMIG-seq法(Suyama & Matsuki 2015)により判定する。 3) ファイトトロンにおける耐塩性の比較 春化処理を施した実生を25C/15Cに設定したファイトトロン内において0.5%から海水と同程度の塩分濃度(3.0%)の塩水を1から3回散布して栽培し、出穂まで生死を記録する。農耕地系統は砂浜系統よりも耐塩性が弱いのかを検証する。
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