研究課題/領域番号 |
20K06092
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下野 嘉子 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40469755)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 外来植物 / 移植実験 / 砂浜 / 分布パターン |
研究実績の概要 |
外来植物であるドクムギ属には、農耕地に蔓延し、牧草や緑化植物と遺伝的に類似する集団(以下、農耕地タイプとする)と、砂浜海岸に蔓延し、輸入穀物混入種子と遺伝的に類似する集団(以下、砂浜タイプとする)が存在する。このような分布パターンの違いをもたらすメカニズムを解明するため、以下の実験をおこなった。 1)砂浜における移植実験 過去に実施した実験では、農耕地タイプは砂浜タイプよりも出穂時期が遅く、砂浜に移植した場合は出穂期に高い死亡率を示すことが示された。出穂期の違いが砂浜におけるタイプ間の適応度に違いをもたらす要因なのかを確かめるため、三重県津市の砂浜海岸において移植実験を行った。農耕地タイプ、砂浜タイプの他、早生品種ワセユタカの実生を2020年11月に移植し、2週間ごとに生死と出穂の有無を記録した。ワセユタカは農耕地タイプと遺伝的に類似しているが、開花期が砂浜タイプと同時期の牧草品種である。生存率は砂浜タイプ、農耕地タイプ、ワセユタカの順に高くなり、出穂時期は砂浜タイプ、ワセユタカ、農耕地タイプの順に早くなった。出穂時期の早いワセユタカの死亡率が農耕地タイプよりも高くなったことから、出穂時期の遅さが農耕地タイプの死亡率を上昇させるという仮説は支持されなかった。 2)砂浜海岸におけるドクムギ属の分布状況調査 ネズミムギの出穂時期にあたる5月後半から6月にかけて茨城県から静岡県の砂浜海岸9ヶ所を訪問し、ドクムギ属の分布状況を記録した。ドクムギ属の生育が見られた場合は葉を採集しDNAを抽出し、MIG-seq法により農耕地タイプと砂浜タイプどちらが生育しているのかを評価した。千葉県以北の海岸にはドクムギ属が少ない傾向にあり、生育している場合は農耕地タイプが優占していた。一方、神奈川以南の砂浜には砂浜タイプが優占していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年コロナ禍による外出自粛のために遅れていたフィールドワーク(ドクムギ属の分布状況調査)を2021年春に実施したが、当初予定していた東北地方を含めず規模を縮小して行った。
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今後の研究の推進方策 |
1)砂浜海岸におけるドクムギ属の分布状況調査:ドクムギ属の出穂時期にあたる5月後半から6月にかけて東北の砂浜海岸を訪問し、ドクムギ属の分布状況を記録する。ドクムギ属が生育していれば葉を採集しDNAを抽出し、農耕地タイプと砂浜タイプどちらが生育しているのかをMIG-seq法により判定する。 2)耐塩性の比較:農耕地タイプは砂浜タイプよりも耐塩性が低いのかを検証する。0.5%から海水と同程度の塩分濃度(3.0%)の塩水を1から3回散布して栽培し、出穂まで生死を記録する。 3)種子の耐湿性の比較:砂浜タイプが農耕地において優占できない要因として、湿った条件下における種子の死亡率が関わっているのではないかと考え、埋土実験を実施する。水田土壌あるいは砂をつめたワグネルポットに農耕地タイプおよび砂浜タイプの種子を埋土する。6月から埋土し、発芽時期である10月に取り出し、種子の生存率を比較する。 4)競争実験:砂浜タイプが農耕地において優占できない要因として、砂浜タイプは競争に弱い可能性を検証する。競争相手を同集団、異集団と設定した組み合わせで、栄養条件良好な培養土条件区と、栄養条件不良な砂条件区に移植する。結実期に各タイプの種子生産量を比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年コロナ禍による外出自粛のために遅れていたフィールドワーク(ドクムギ属の分布状況調査)を2021年春に実施したが、規模を縮小して実施したため、繰越金が生じた。 2022年度は、2021年度に訪問できなかったエリアの分布調査を実施するため、繰越金はこれに当てる予定である。
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