外来植物であるドクムギ属には、農耕地に蔓延し、牧草や緑化植物と遺伝的に類似する集団(以下、農耕地タイプとする)と、砂浜海岸に蔓延し、輸入穀物混入種子と遺伝的に類似する集団(以下、砂浜タイプとする)が存在する。このような分布パターンの違いをもたらすメカニズムを解明するため、以下の実験をおこなった。 1)砂浜海岸におけるドクムギ属の分布状況調査:宮城県から福岡県の砂浜海岸33ヶ所を訪問し、ドクムギ属の分布状況を記録した。千葉県以北の海岸にはドクムギ属がほとんど定着しておらず、神奈川県以南の海岸には広く砂浜タイプが蔓延していることが明らかとなった。 2)砂浜における移植実験:三重県津市の砂浜海岸において、農耕地タイプ、砂浜タイプの他、早生品種ワセユタカの実生を移植し、2週間ごとに生死と出穂の有無を記録した。ワセユタカは出穂期が砂浜タイプと同時期の牧草品種である。出穂時期の早いワセユタカの死亡率はもっとも高く、出穂時期の遅さが農耕地タイプの死亡率を上昇させるという仮説は支持されなかった。 3)種子の耐湿性の評価:砂浜タイプが農耕地において優占できない要因として、湿った条件下における種子の死亡率が関わっているのではないかと考え、埋土種子実験を実施した。水田土壌あるいは砂をつめたワグネルポットに農耕地タイプおよび砂浜タイプの種子を埋土し、種子の死亡率を比較した。その結果、砂浜タイプの死亡率は農耕地タイプよりも有意に高かった。 4)競争実験:砂浜タイプが農耕地において優占できない要因として、砂浜タイプは競争に弱い可能性を検証した。栄養条件良好な培養土区と、栄養条件不良な砂区に、競争相手が同タイプあるいは異タイプの組み合わせで移植し、生産種子数を計測した。砂浜タイプは栄養条件が良好な環境では、他種との競争により適応度が低下する可能性が示唆された。
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