研究課題/領域番号 |
20K06095
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
篠原 明男 宮崎大学, フロンティア科学総合研究センター, 准教授 (50336294)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロバイオーム / 腸内細菌 / 抗生物質 / ディスバイオーシス / 野生動物 |
研究実績の概要 |
2021年度も新型コロナウイルス感染拡大防止を考慮して野外調査をせずに、本学で保持する野生由来バイオリソースを活用することで研究を遂行した。 昨年度にヨーロッパモリネズミに抗菌薬を経口投与・被毛への塗布・皮下投与の3種類で投与した際の糞便サンプルを次世代シーケンサーによる16S rRNA遺伝子のアンプリコン解析によって分析したところ、いずれの投与方法においても腸内細菌叢の乱れ(=ディスバイオシス)を観察した。そのうえで得られた実験結果を基に経口投与によるディスバイオシスモデルの条件を決定した。そこでヨーロッパモリネズミを用いて、抗菌薬の経口投与によるディスバイオシス誘導後に、①自然回復を検証する対照群(n=4)、②健常個体の糞便を餌として11日間給餌する糞便給餌群(n=4)、③健常個体の糞便をスラリー状にして毛皮に11日間塗布する糞便塗布群(n=4)の3群を設定し、ディスバイオシスからの回復方法を検討した。その結果、3群ともに腸内細菌叢の多様性そのものは回復したが、腸内細菌叢構成の類似度をJaccard距離の主座標分析で解析すると、対照群では1個体のみが抗菌薬投与前の状態に回復したが、他個体は回復していなかった。一方で糞便給餌群よりも糞便塗布群において抗菌薬投与前の腸内細菌叢構成に早く回復することが示唆された。糞便給餌は食糞行動によって、糞便塗布は毛繕いによって糞便に含まれる腸内細菌が取り込まれたと考えられ、両手法は腸内細菌叢の簡便な回復方法として有効であることが示された。 また、前年度は食糞行動が活発なハムスター類の腸内細菌叢を明らかにしたが、2021年度は食糞行動の少ない齧歯類としてハタネズミ類6種の腸内細菌叢を明らかにした。今後は食糞行動の程度の違いによる腸内細菌叢の違いを検証すると共に、真無盲腸類の腸内細菌叢を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度も新型コロナウイルス感染拡大防止を考慮して野外調査を断念した。しかしながら研究計画書において言及していたように本研究室が保持する野生由来バイオリソースを活用することで研究を遂行することが出来た。2021年度は前年度に実施した動物実験によって得られた糞便サンプルを解析し、食糞行動のうち拾い食い行動を行うヨーロッパモリネズミを用いたディスバイオシスの誘導方法を決定した後に、ディスバイオシスからの回復方法の検証を実施することが出来た。 ヒトにおけるディスバイオシスからの回復方法として糞便移植(FMT)が有効であることが確認されていることから、野生動物においても健康な個体の糞便をディスバイオシスを生じている個体に経口投与する方法が有効であろうと想定していた。しかしながら小型哺乳類に糞便を強制的に経口投与することは容易ではない。そこでディスバイオシスからの回復方法として「糞の拾い食い」を有効利用できるかもしれないと考え、まず落ちている糞を食べる行動が観察されるアカネズミ属齧歯類を用いて実験をおこなった。その結果、健康な個体の新鮮な糞を給餌するだけでも「糞の拾い食い」をする動物種ではディスバイオシスから回復させることが出来ることを見いだした。さらに新鮮な糞便をスラリー状にして毛皮へ塗布する方法においても腸内細菌叢を回復させることが出来た。この結果は毛繕い行動によって糞便が経口経由で取り込まれたことによって腸内細菌叢が回復したことを示しているが、興味深いことに糞を給餌するよりも、より早い日数で回復することが示唆された。食糞行動をするかしないかは動物種に左右されるが、毛繕い行動は哺乳類全般で観察されることから、ディスバイオシスからの回復方法として適用種が広いことが想定される。この様に2021年度に本研究は大きく進展したことから順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究によって、野生動物におけるディスバイオシスからの回復方法として食糞行動だけでなく毛繕い行動を利用できる可能性が見いだされた。しかしながら、糞便を毛皮に塗布するためには糞便をスラリー状にする必要があり、その操作によって嫌気性細菌の生存率などが低下して回復度合いに関与している可能性がある。そのため腸内細菌叢が回復されたことが確認された後に、さらに経過観察期間をおいて腸内細菌の回復が長期にわたって維持されるかどうかを検証する必要がある。また、糞便を給餌した個体等の腸内細菌叢も比較のために取得する必要がある。2021年度に動物実験をした際のサンプルを保存していることから、今後はさらにサンプルの分析を進めると共に、次世代シーケンサーによって得られた16S rRNA遺伝子のデータを、より詳細なレベルまで分析する。 また、2020年度は糞を肛門から直接に食べ、なおかつ食糞頻度が極めて高い種としてハムスター類を、2021年度は糞を肛門から直接に食べるが食糞頻度が極めて低い種としてハタネズミ類の腸内細菌叢を明らかにした。2022年度はコロナ禍の影響を注視しながらフィールドワークを再開させ、食糞行動が観察されない真無盲腸類の腸内細菌を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスや世界情勢の影響から、注文していた試薬類が年度内に納入されなかった。試薬類は既に発注していることから納入され次第、支払いを完了する。
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