本研究では3つの食糞様式(①糞を肛門から直接に食べる、②落ちている糞を拾い食いする、③食糞をしない)に着目し、その腸内細菌叢の構成による違いと、ディスバイオシスからの回復方法の構築を試みることを目的とした。これまでに3つの食糞様式を行う小型哺乳類をターゲットとした実験を実施してきた。2021年度に①を、2022年度に②を、2023年度に③の腸内細菌叢を明らかにした。また小型哺乳類の毛繕い行動を利用して健康な個体の糞を毛皮に塗ることでディスバイオシスから回復させることが出来ることを示した。一方でこれらの実験課程で、①の糞を肛門から食べるハムスター類が、②の拾い食いもしていることが頻繁に観察されたことから、2023年度はこれまでのデータのとりまとめを行うとともに、改めて食糞行動様式に着目した追加行動学的実験を実施した。 対象動物として、ロシアハタネズミ(Micortus rossiaemeridionalis)を用いた。24時間観察(n=6)を行い、活動量、食糞行動(頻度)、食糞行動(糞数)、拾い食い行動(頻度)および拾い食い行動(糞数)を比較した。その結果、ロシアハタネズミは肛門から直接に糞を食べる行動(雄86.0±8.5回/day、雌69.0±6.5回/day)だけでなく、拾い食い行動(雄26.0±8.6回/day、雌45.7±34.2回/day)も頻繁に行っていることが明らかとなった。ハタネズミ類はウルトラディアン型の生活リズムを示し、明期・暗期に関係なく、拾い食い行動を行っていた。またアルメニアンハムスター、ジャンガリアンハムスターでも同様に頻繁な拾い食い行動が観察された。これらの結果から、①の動物種には毛皮に新鮮糞を塗るよりも、新鮮糞を与えることでより簡便に腸内細菌叢のディスバイオシスからの回復が見込めることが示された。
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