水田は湿地環境である一方、人間による改変を受けた土地利用形態の一つでもあるため、その由来には自然湿地から、もとは森林であった場所、乾燥地であった場所等、湿地とは大きく異なる環境が大きく改変されたものまで様々なものがありうる。本研究は、もともと湿地であった場所に成立した水田は長期的に湿地が維持されている状態に近く、湿地性植物のハビタットとしての質が高いという仮説を検証することを目的として実施した。
2022年度は、前年までに確認された、もともと湿地である水田であっても圃場整備によって湿地ハビタットとしての質が大きく低下するという予測を、現地調査および標本採集記録によって検証した。その結果、予想どおり圃場整備を経験した水田では、地形解析によって推定した由来(もと湿地か否か)に関わらず、湿地性植物が大きく減少し、外来生物を含む乾燥地を好む種に入れ替わっている傾向が強いことが示された。さらに、神奈川県全域を対象に、水田の規模と由来の関係を1kmメッシュ単位で検討したところ、大規模な水田は川沿いの氾濫原に立地する傾向が強いこと、すなわち、もと湿地である可能性が高いことが示された。しかし、これと同時に圃場整備率との関係を検討したところ、大規模な水田は圃場整備率が高い傾向が示された。この結果として、本来的に湿地ハビタットとしての質が高いと考えられる水田ほど、圃場整備というハビタットの質を大きく低下させる人為改変を受けているという予想外の駆動因が存在している可能性が示唆された。
研究期間を通し1)仮説どおり、もともと湿地であった場所に成立している水田は湿地ハビタットとして高い質を持つこと、2)ただし、そういった水田の多くは大面積であるため、農作業の効率化を目指す圃場整備が優先的に行われ、期せずしてハビタットの質を大きく低下させている側面があることが明らかになった。
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