研究課題/領域番号 |
20K06097
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
弘中 満太郎 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (70456565)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 行動学 / 昆虫 / 走光性 / 光行動抑制 / 光拘束 / 飛去 / 低誘虫 / 人工光 |
研究実績の概要 |
昆虫の視覚定位行動や光反応に関してはこれまで,正の走光性(以下,走光性)の膨大な研究がなされてきたが,その多くが走光性現象の前半段階である「誘引」を扱ってきた.その一方で,誘引後に昆虫の行動や生理がどう変化し,あるいは変化せず,その結果として誘引された個体が光源の周囲にどのように「拘束」され,どのような結末をたどるのかについては,わずかな研究例しかない.本研究課題では,人工光源に誘引された昆虫の,その後の行動的・生理的変化を明らかにし,光拘束に伴って起こるコストを野外で測定する.またそれらの知見を利用することで,光拘束現象と走光性を利用した昆虫の大量移送の可能性について検討する. 初年度(令和2年度)には,小課題「1.野外での光拘束現象の定量化」を進めた.本小課題では,野外での長時間の個体観察とサンプリングを網羅的に行うことで,誘引後の個体の行動の経時的変化の様相に複数のタイプが存在することの証明を目指した.日没から翌日の午前10時まで,メタルハライドランプと白布を用いたライトトラップを点灯し,飛来した昆虫に個別マーキングを施すことで,人工光源周辺に飛来した昆虫の目視による長時間観察を行った.観察に成功した10目63種391個体を解析した結果,滞在時間は最短で1分,最長で950分で,多くの種が光源周辺で長時間の光拘束を受けていることが明らかになった.飛去のタイミングは種によって大きく異なり,分類群を越えて5つのタイプに大別できた.また,光源を消灯した場合の行動変化を明らかにするために,小課題「5.飛去に対する消灯効果の検証」を遂行し,光拘束を受けている数種の昆虫において消灯後の行動を観察した.その結果,どの種でも消灯後60分以内に飛去することが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の課題としていた,2つの小課題の内,「1.野外での光拘束現象の定量化」では,野外において,飛去のタイミングに5つのタイプが存在すること,飛来した昆虫の多くが長時間,光拘束を受けることを明らかにできた.加えて,予定していなかった小課題「5.飛去に対する消灯効果の検証」を遂行し,飛去促進のために消灯が顕著な効果をもたらすことを明らかにした.一方で「2.室内での光拘束メカニズムの実証」では,実験準備段階と昆虫の活動シーズンに新型コロナウイルス感染症の蔓延防止を目的とした研究活動の制限があり,実験系の構築のみに留まった.このような状況から,研究全体はやや遅れていると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
2年目(令和3年度)は,「1.野外での光拘束現象の定量化」と「3.光拘束の死亡コストの検出」の2つの小課題を進める予定であったが,研究計画を一部変更して,小課題「6.光拘束および離脱解発メカニズムの解明」を遂行する.この小課題は,小課題1で明らかになった5タイプの昆虫の内,日の出時刻前後に飛去をする種を対象として,それらの種の飛来個体がどのようなメカニズムで人工光源周辺に滞在し,何をキューとして飛去するのかについて明らかにするものである.本小課題では,この滞在と飛去という2つの現象の行動メカニズムを明らかにし,その両方に人工光だけでなく自然光が重要な役割を果たしていることを示す.具体的には,ツヤアオカメムシLaucias subpunctatusとアオドウガネAnomala albopilosaをモデルの材料として,飛来後の行動活性の連続観察,感覚器遮断個体の観察,飛去方向の定量化,飛去時の環境変化の測定,ドーム型テントを用いた行動切替実験を遂行する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策のために研究施設の使用などが一部制限されたことに基づいて,室内で遂行する予定であった「2.室内での光拘束メカニズムの実証」の準備のための消耗品費の一部と研究の遂行にかかる学生アルバイトへの謝金の支払いがなくなったことが,次年度使用額が生じた理由である.次年度は計画を一部変更して,新型コロナウイルス感染症の状況によっても影響を受けにくい野外での行動メカニズム解明を中心として研究を遂行する.新しい実験系の構築のために必要な消耗品や学生アルバイトへの謝金として使用する.
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