研究課題/領域番号 |
20K06099
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
亀山 慶晃 東京農業大学, 地域環境科学部, 教授 (10447047)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水田生態系 / 外来生物 / 遺伝的攪乱 / 種間交雑 / 繁殖干渉 / 生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
水田に生育する在来植物の減少は、除草剤の使用や圃場整備、外来植物の増加などと関連付けられることが多い。しかし、除草剤の影響は在来植物に限った要因ではなく、圃場整備による田面への影響は畦畔や法面よりも軽微と考えられる。また、外来植物が増加したとしても、直接的な種間競争のみで在来植物が一方的に駆逐されるとは考えにくい。本研究の目的は、畦畔や法面、道路など田面周辺への外来植物の侵入が、送粉を介した相互作用、即ち狭義の繁殖干渉や種間交雑によって、田面内部に生育する在来植物に負の影響を及ぼしている可能性を検証することである。主たる対象種はキク科のタカサブロウ属植物であり、在来タカサブロウ(モトタカサブロウ)と外来タカサブロウ(アメリカタカサブロウ)の地理的分布、種間の交配親和性、雑種を含めた集団および各個体の遺伝的組成、異なる系統の花粉が柱頭に付着することによる繁殖成功度(種子の質および量)への影響、それらの頻度依存性(正の頻度依存選択の強さ)について、系統地理学や集団遺伝学、繁殖生態学的な研究を実施している。昨年度までの研究によって、(1)両種は自動自家受粉によって高い結実率(60-70%)を維持しているが、他殖によって生産種子の量と質が増加すること、(2)異種花粉が受粉すると両種の結実率は未処理(自動同花受粉)と同程度まで低下し、生産された種子の20-30%が雑種となること、(3)雑種の遺伝的組成は多様であり、様々な雑種後代が形成されていること、(4)かつて有害雑草とされていたモトタカサブロウは希少になっており、日本各地でアメリカタカサブロウが優占していること、などを明らかにした。本年度は全国各地で系統地理的なサンプリングを進めるとともに、昨年作出したF1雑種と親種との交配実験をおこない、雑種を含めた種間相互作用について検証した。その結果および今後の予定は以下の通りである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による移動制限が緩和されたため、本年度は日本各地で調査を実施した。一連の研究によって、(1)東北・北陸地方ではほぼ全てがアメリカタカサブロウであり、それらは空きパッチに侵入したと考えられること、(2)琉球列島ではほぼ全てがモトタカサブロウであるが、本州の系統とは遺伝的に異なっていること、(3)関東以西ではアメリカタカサブロウとモトタカサブロウ、両者の雑種が混生しており、純粋なモトタカサブロウの集団は極めて稀であること、(4)社会的評価の高い水田が必ずしも良好な生息地とはいえないこと、などを明らかにした。これらの成果は国際誌に投稿中である。また、人為的な交配実験についても作業を進め、(1)F1同士の他家受粉では種子生産数が著しく低下すること、(2)F1の自動自家受粉では親種と同程度の種子が生産されること、(3)戻し交配では親種が種子親、F1雑種が花粉親となって進行すること、などを明らかにした。これらの結果は、雑種が生産する花粉の質が雑種崩壊によって低下し、その花粉が柱頭に付着することによって繁殖成功度が大きく変化する可能性を示唆しており、詳細な研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
系統地理的な研究については一定の成果が得られたが、数十メートル~数十キロスケールでの状況は不明であり、関東近郊の野外自然集団を対象に調査を進めていく。交配実験については世代の進行に伴って稔性が回復する(適応的な遺伝子セットが回復する)可能性があるため、本年度作出したF2雑種を用いてさらに研究を進めていく。送粉を介した相互作用については、野外環境におけるポット栽培実験(頻度操作実験)を実施し、送粉者の種類と行動、種間送粉の程度、それらを反映した繁殖成功度(種子の量と質)について検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、一昨年度はコロナ禍によって長距離出張が大幅に制限され、研究計画を変更せざるを得なかった。研究期間全体の予算計画は変わっておらず、日本各地でのサンプリングは本年度集中的に実施した。次年度は交配実験や操作実験、それに伴うSSR解析に注力する。
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