本研究の目的は、畦畔や法面、道路など田面周辺への外来植物の侵入が、送粉を介した相互作用、即ち狭義の繁殖干渉や種間交雑によって田面内部に生育する在来植物に負の影響を及ぼしている可能性を検証することである。主たる対象種はキク科のタカサブロウ属植物であり、昨年度までの研究によって、(1)東北・北陸地方ではほぼ全てがアメリカタカサブロウであり、それらは空きパッチに侵入したと考えられること、(2)琉球列島ではほぼ全てがモトタカサブロウであるが、本州の系統とは遺伝的に異なっていること、(3)本州の関東以西ではアメリカタカサブロウとモトタカサブロウ、両者の雑種が混生しており、純粋なモトタカサブロウ集団は極めて稀であること、(4)アメリカタカサブロウとモトタカサブロウは自動自家受粉によって高い結実率(60-70%)を維持しているが、他家受粉の方がさらに結実率は高くなること、(5)異種花粉が受粉すると両種の結実率は袋掛け(自動自花受粉)と同程度まで低下し、生産された種子の20-30%が雑種となること、(6)F1の自動自家受粉では親種と同程度の種子が生産されるにも関わらず、(7)F1の強制自家受粉では結実率が半減し、他家受粉ではほぼゼロになること、(8)戻し交配はF1が種子親、親種が花粉親となって進行する可能性が高いこと、などを明らかにした。本年度は野外環境におけるポット栽培実験(頻度操作実験)を実施し、(9)モトタカサブロウとアメリカタカサブロウのいずれも自殖が卓越し、結実率は異種頭花数頻度の影響を受けないものの、(10)異種頭花数頻度が増加するほど他殖率は低下し、交雑率が増加する傾向があること、などを明らかにした。これら系統地理、繁殖、送粉に関する一連の研究によって、外来植物と在来植物の送粉を介した生物間相互作用が集団の遺伝的組成や存続可能性に大きな影響を及ぼしている可能性が示唆された。
|