[1] トビムシ類のいくつかの種からミトゲノムの全長配列を取得した。トビムシ類では、同種の同一の個体群内でもミトゲノムの多様性が高いため、並列シーケンサー用のDNAライブラリは、一個体から作成することが望ましい。トビムシ類は個体サイズが小さく、ライブラリ作成に必要なDNA量の確保の点が課題であったが、沖縄科学技術大学院大学の共同研究者の協力を得て、標準プロトコルを改変することにより、微量DNAからのライブラリ作成に成功した。これにより、トゲトビムシに類似する種 (Tomocerus cf. ocreatus) の2地域個体群からそれぞれ、一つのミトゲノムを解読できた。またアカイボトビムシの一種 Lobella sp. について、2個体のミトゲノムを解読した。さらに、その微小な体サイズのために一個体からの解読が困難であったヨシイホソシロトビムシ Mesaphorura yosii は、一個体から増やした飼育個体群を試料とすることで解読することが出来た。これらの配列と、これまでに公表されている30以上のミトゲノム配列から、トビムシ類で配列が広く保存されている領域を同定し、メタバーコーディング用の新規プローブを設計することが出来た。 [2] 各地で採集したトビムシ類からDNAバーコードの収集を進め、200以上の個体から配列を決定した。トゲトビムシに類似する種については、琉球弧における生物地理学的検討も進め、核ゲノムの遺伝子配列も追加で解析することで、進化の歴史を検討した。その結果、同属他種とこの種の分岐、そして地域個体群の分岐が、琉球弧の成立や、島嶼間の分断の歴史と対応している可能性が示された。 [3] 本研究の遂行に関連して、様々な生物試料からオルガネラゲノムの決定を行った。タイモ(沖縄におけるサトイモの地域品種の一つ)の色素体ゲノムの全長配列が得られたため、これを公表した。
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